Column

たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

エッセイライフスタイル

そこにはたくさんの本物があった

突然ですが、クイズです。

これらの地域に共通する点は何でしょう?

・・・

・・・

・・・

正解です。


答えは、今年1月にわたしが滞在した地域です。

どうも。
ウルトラかんちゃんです。

わたしは2年ほど前から、旅をしながら暮らしています。

先週は那須高原(栃木)にいたし、昨日は出雲(島根)にいました。

さて何を書こうか

たてヨコラムお決まりの内容決めタイムです。

エントリーしたときには、ワーケーション×結婚にまつわるお話を書こうかと思っていたのですが、事情により断念したので、ふぉんとに書くことがない…。

困り果てて、たてヨコラムの投稿予定日から1日過ぎてしまった本日。

あれ、待てよ?

昨日までの2日間って、一冊本が書けそうなほどの感動体験だったやん!

2年間旅を続ける中で、ダントツ一番といっても過言ではないほど、感動的で、気づきと学びがあって、人生の方向性が見えた体験だったやん!

よし、その話をしようかな。

します。

世界遺産のまち

時は2024年3月3日。
わたしたちは島根県大田市大森町という、400人が暮らす小さな町に来ていました。

そこは世界遺産のまち。石見銀山があるエリアです。

石見銀山が世界遺産なのではないですよ。
『石見銀山遺跡とその文化的景観』が世界遺産なのです。

知らなかったでしょう?
わたしは石見銀山が世界遺産だってことすら知らなかった。

ともあれ、「石見銀山遺跡とその”文化的景観”」が世界遺産ってどういうこと?と、お思いかもしれません。
これは「世界遺産になったから観光客も増えるし商売も繁盛する。でも、それを利用して儲けようみたいなことは決してしない」という意思を含めての文化的景観そのものが、世界遺産なのだそうです。

石見銀山周辺には、観光客向けの派手な看板や、でっかいお土産ショップも、有料駐車場すらもありません。
ただ豊かに、地域の人々の暮らしと、江戸時代からの景観が大切に残されています。


▲地域の方が、派手色を覆った


▲地図がいるなら地面に埋めちゃえ。

そこにはお宿があった

今回の旅の目的、それはこのお宿です。

お宿といっても、ただの旅館じゃないんです。
それは”暮らす宿”。

他郷 阿部家」と呼ばれるお宿です。

運営しているのはセレクト雑貨店としても有名な「群言堂」さん。
そちらは聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。


▲石見銀山ふもとにある群言堂本店

他郷 阿部家


他郷阿部家は、築250年の古民家。
江戸時代の地役人という役職の方が住んでいた武家屋敷を、21年間かけて工事して再生したお家です。
21年間かけて工事したというのも、気が遠くなるような時間軸の話ですが
もっと驚くのは、その古民家に住居として住みながら、10年かけて魂を吹き込んだ女性がいることです。

その名は、松場登美さん。
群言堂の服飾デザイナーとして活躍される傍ら、大森町の古民家を13件も再生されてきました。

登美さんは、可愛らしくて飾らない、されどものすごいオーラを放つお方です。
そこに登美さんがいるだけで、心があったかくなる。
登美さんがそこにおらずとも、登美さんの心と愛が伝わるおもてなしがたくさん散りばめられている。
他郷 阿部家はそんなお宿です。

食卓を囲む

少しまちを散策したら、外が暗くなる一足前にチェックインです。

阿部家では、宿泊している2組のグループと登美さんで、夕食を一緒に囲みます。


▲大森町の原木椎茸農家さんの肉厚しいたけ

食卓に並ぶのは、季節の食材でこしらえた和えものやコロッケ。
昔ながらの保存食「ゆべし」もいただきます。


「ゆべし」とは…漢字で”柚餅子”と書きます。文字の通り、実をくり抜いた柚子の中に八丁味噌とくるみを詰め込んで蒸したあと、冬の間の約2ヶ月、外で干しておいて食べる保存食です。愛媛では「星加のゆべし」というフレーズは聞きますが、ゆべしがなんなのかわかっていない人も多いのでは。わたしもそうでした。

阿部家では、食卓のすぐ横に厨房があって、調理してくださっている料理人さんとの距離がものすごく近い。
「これは何ですか?」と聞いたら、
「それは”へしこ”です。鯖を塩漬けして、米ぬかに漬け込んで1年以上かけて熟成させた発酵食品です。」
なんていう風に教えてくださいます。
その野菜はわたしたちが地域の子どもたちと一緒に育てているお野菜なんです、とか。
料理人さんたちのこだわりが次から次へと飛び出してきます。


▲水色のお皿にのっているのがへしこ。クセになる味。

生の登美さん

でも、驚くべきはやはり、登美さんと一緒におしゃべりしながら食事をいただけることです。
登美さんとのお話に夢中になって、食事どころではないんじゃないかと思うほどです。
お部屋の説明を受けたり、阿部家の歴史を学んだりした後なので、登美さんには聞いてみたいことだらけです。

ご主人の大吉さんとは町内別居をされていたり
日々の暮らしの中でものを大切に、捨てない工夫をされていたり
74歳の今でも住み込みで古民家の再生を続けていたり

暮らしを豊かにする工夫や、大切にしている考え方など、登美さんから学びたいことがたくさんあります。
ここで人生相談をする人も多いんだろうな…

登美さんに「毎日宿泊者の方と夕食を共にするなんて、大変じゃないんですか?」と聞いてみたところ、「大変と思ったことは一度もないのよ」と。

等身大で、ありのまま飾らない、けれど手は抜かない。
大きくも、小さくも見せない。
自分の心の声に素直にしたがう。
そんな登美さんみたいな女性になりたい、と心から思います。


▲破れた障子は可愛く直すのが登美さん流

阿部家の随所には

ベッドの中には「豆炭」を使った湯たんぽが。
広いお風呂には、浴室内に薪ストーブがあってぽかぽか。
洗面台の脇にはピシッとたたまれた小さな手ぬぐいが重ねてあって。
書斎の椅子には、フカフカのクッション。

ほんの少しの隙もないくらい、満たされて、愛が溢れていて、すべてが行き届いた空間。

風呂敷に包まれたパジャマは包まれるような着心地で、
ベッドサイドには小さなテーブル。これがなんとも便利。
お部屋には火鉢があって、置かれたやかんの蒸気のおかげで乾燥もない。
どのお部屋にもたくさんの本があって、気になるタイトルばかり。
スマホを見ている時間なんて惜しいので、睡魔が襲ってくるギリギリまで本を読む。

豊かだなあ…

と何度も思う空間。


▲豆炭と煉炭


▲積まれた薪もなんだか愛おしい


▲ひょうたんの形の火鉢

たくさんの本物

ここにあるものすべて、意味のないものが一つもない。
”なんとなく”これを置いてますとか
”なんかおしゃれだから”これにしてみました、なんてことがない。

付け焼き刃で作られたものや、偽物はこの部屋では浮いてしまう。
偽りの感情も、ここではすべて見透かされるような気がしてくる。

本物に囲まれると、自分に正直になれる。

自分は何をして過ごしたい?
自分はどうありたい?
自分はどんな暮らしがしたい?

そんな自問自答を、自然とさせてくれる場所でした。


▲気持ちのよい朝


▲朝食もみんなで


▲炭火でドイツパンを焼いてくださいます

おわりに

阿部家とそれに関わる人々、登美さんの魅力、そして他郷 阿部家という場所の持つ力。
これらが持つエネルギーを、少しでもみなさんに伝えられていたら嬉しいです。

そして「ぜひ阿部家に一度泊まってみたい!」と思っていただけたなら、それもまたとっても嬉しいです。
それくらい、誰かに伝えたくなるお宿であり、地域であり、人々です。

人生に迷って旅に出たくなったら
今の自分を見失いかけたら
これからどんな風に生きていくか悩んだら

そんなときにはぜひ、他郷 阿部家を訪れてみてください。
きっと、あなたらしい人生のヒントをもらえるはずです。


▲口をつけたら、あら可愛い

ABOUT ME
武市 栞奈
松山市出身。月の半分を愛媛、半分を県外で過ごしながら多拠点生活中。自由なライフスタイルの実現のサポートや全国地方創生も行う。株式会社まどんなクリエイト代表取締役。「ウルトラかんちゃんの人生戦略室」主宰。
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