ちょっと待ったぁ!
どうせ適当に選んだろ? 正直に言ってみ? 顔見れば解るよ。
ほれ、最近作ったその資料の表紙。「良い感じに完成した!」って随分ご機嫌だったけどさ、これ「MS ゴシック」使って、しかも太文字設定してるよね?
で、これはナニカ意図ガアッテ、選ンデルノデスカ?
さては過去の先輩や上司の資料をそのままコピペしてきて、それを書き換えてるんだろ?わかってる、わかってる。今まで誰にも怒られなかったし、突っ込まれたこともないってか。そりゃそうだろうな。大丈夫そういう奴らを沢山見てきたから。
でもさ、社会課題の解決や、会社の大きな儲け話、君の素敵なプレゼンテーションが台無しになってる可能性って考えたことあるかい?
ほら、「社会人は第一印象を良くする」だとか、「芸能人は歯が命」だとか、髪型も服装も爪の手入れも、白髪染めも、シャツのアイロンも、スーツの折り目も、それこそ革靴だって、君は気を使って綺麗にしてるし、結構こだわって買ってたりするよね?
じゃあなんで、その企画書の表紙の文字。MS P ゴシックなんか使ってるのよ?
え? 違う? これMS ゴシックだって?そっか、それはもっと最悪じゃん。
そっか。誰も教えてくれなかったんだよな?
そだね、教えてくれないね。確かに学校でも会社でもこんなことは教えてくれない事が多いよな。
だってさ、今のオッサン共が若い頃は手書きだったんだもの。もしくはワープロ。ワープロって知ってるかい?ワードプロセッサーっていう文字打ち専用のマシンがその昔普通にオフィスにはあったんだ。
君が無意識に普段使ってるMS ゴシックってさ、この世に生まれたのが30年以上前の1992年。
バブル真っ只中のWindows 3.1のシステムフォントとして誕生したわけなんだよ。
で、会社にパソコンが普及しはじめたのが、Windows 95が発売された1995年。当時なんてみんな当たり前の様に標準フォントとしてMS ゴシックやMS 明朝を使ってたわけだ。俺はさ、別に君が街で見かけた文字のフォントがなんていうフォントなのか当てられる程のマニアになれなんて言わないよ、さすがに。デザイナーの中にはたまにいるにはいるどね。まあ、職業病的なやつって言うの?あれだよ。
今日から「たてヨコ愛媛界隈では使用禁止」とする。
って事でだ。
気がついてたかな、実はこのコラムのタイトルも君が大好きなMS ゴシックだ。何気なくじゃなくてよく見てみな。「どうせ適当に選んでるんだろ?」の「う」が少し太いだろ?他にも実「い」や「の」も太かったりするし、文字形状が変だったりする。
とにかくこのフォント、他の文字も漢字も全体としての文字のバランスが最悪なんだわ。バラバラ。
しかも、MS ゴシックは「太文字」を実は持っていない。
お?反抗的な感じだね。笑
OK、OK。「太文字にできるわ!やってるし!」って思ったんだろ?
ありゃ、ソフトの方でフォントをずらして重ねて、太字風にしてる。だから、基本はマイクロソフトのOffice以外のソフトだとMS ゴシックは太文字を選べないんだよ。
なんでって?
さっきも言ったが、MS ゴシックやMS 明朝が出てきたのが1992年。
既に30年以上前の旧石器時代の話。あの時代は13インチモニタの表示サイズが640px × 480pxだったって知ってるかね?テレビもこのサイズ。今のフルHDが1,980px × 1,080px。最近のテレビやモニタにある4Kに至っては、3,840px × 2,160px。我々が見てる画面の精細度が当時からするとあり得ない数字なんだよ。それこそスマホもそう。
登場の頃は画面もプリンタも今よりも荒かったし、PC自体の能力も低い。その環境の中で文字として見え方のBESTを捜して作ったのが当時のフォントってわけだ。今のPC周りの解像度レベルからすると、当時想定されている見え方をとんでもないレベルで置いてけぼりにしちまった訳だ。
だから、フォントとしてはもうそっとして上げるべき存在なんだ。
解ったかい?
・MS ゴシック
・MS P ゴシック
・MS 明朝
・MS P 明朝
これらは、みんなの心の奥底に「ありがとう」って言葉と共にそっと安置してあげるべきなんだよ。だから、たてヨコ愛媛のメンバーは余程の事が無い限りこの老兵に鞭を打たないことを切に願うのだよ。
ちなみに。。。。余談だがこれらフォント名に付いてる「P」ってなんの暗号か知ってるか?
まさかこれも適当に使ってるんじゃねーだろうな?
いいか、このPってのは素敵な素敵な「プロポーション」の「P」だ。
Pが付いてないフォントが「等幅フォント」。全ての文字が同じ幅で作られている。それに対してPが付いているフォントは文字列にしたときの見た目を意識し、文字ごとに幅を変えてるんだ。上の例を見てみれば解るな?特にカタカナの隙間が無駄に広くて汚い。だから文字列の長さや文字位置を揃えたいときはP無、普通に読ませる為の文章はP付きを使う。とはいえ、これももう過去の話だ。この令和の世の中になって1992年生まれのこいつらに最前線で戦えって言う方が無茶な話ってもんだ。
おっとここで、「TTFとOTFの違い」や「カーニング」についても話したいところだが、私の悪いクセだ。伝えたいことが多すぎて既に想定の文字数を超えてきつつある。気になる奴がいるなら、5周年パーティーでもBlast Nightでも声かけてくれ。ビール1杯でうんざりするほど聞かせてやるぜ。
※TTFはトゥルータイプフォント、OTFはオープンタイプフォント。OTFの方が新しく偉い!
※カーニングは上記P付きフォントの様に文字間を調整すること、ちゃんとしたデザイナーはひとつひとつ丁寧に文字間を自分で調整してたりする。ほら、印刷データつくるの大変さがわかるだろ?このカーニングをやってるかどうかで素人かプロが作ったか見たら直ぐ解るってもんよ。
実際にフォントを変えてこのコラムのタイトルを作ってみるとこんな感じになる。
すっきりとまとまりがあって、読みやすいだろ?「に」とカギ括弧にあった無駄な隙間も埋まってる。これがカーニングだ。
その他、フォントにまつわるエトセトラ
で、結局何を使えば良いかって?
しょうがないな。今回は特別に教えといてやる。
今、君が愛して止まなかったMS ゴシックはその名の通り、ゴシック体だ。太さが一定で、しかも太い。それに対するのが明朝体。これは文字の線が太かったり細かったり、書道のお手本の様な文字の形だ。他にも丸ゴシック体、楷書体、草書体、サンセリフ体、セリフ体、装飾書体などいくつもあるし、それぞれのフォントっていうとそれこそ数千はある。君がフォントマニアになりたいわけじゃ無い事を俺はよく理解してるつもりだ。なので、細かいことはスルーする。
いいか?これが鉄則中の鉄則だ。
「見出しはゴシック体、本文は明朝体にしとけ!」
あ?これまたなんだか不満そうだな。
さては「今までだってそうしてきたし、それならMS ゴシックでもいいじゃないか」って思ってんな?
わかってねーな。これだから標準フォントだけの環境や会社のパソコンの中にあるフォント環境の中でぬくぬくと育ってきた小僧は困るんだ。
いいか?さっきも言ったな?日本語フォントだけでも数千書体ある。
俺のPCにインストールされてるフォントの数を数えたら600近くあったぜ。
さすがにこれでPCの動きが多少遅くなる。それ以上に俺は奴らを武器として使いこなさなければならん。だからメモリも64GB積んでたりする。メモリが少ないと動作が遅くて使い物にならんからな。
話を戻すぞ。まずは「見出しはゴシック体、本文は明朝体にしとけ!」が何故かを知っておく必要がある。
文字には【誘目性】【可読性】【判別性】ってのが有るんだ。
考えた事もないだろう?大丈夫だ、知らないでデザイナーを名乗ってる奴もかなりの数いるからな。君が知らなくて当然だ。安心しろ。ここで学んで行けばいい。
まず、
【誘目性】とは「目に止まりやすさ」、
【可読性】は「文字の読みやすさ」、
【判別性】は「誤認・誤読しにくさ」だ。
つまりだな、「見出しはゴシック体、本文は明朝体にしとけ!」ってのは、【誘目性】が高いのが「ゴシック体」。それに対して【可読性】が高いのが「明朝体」って言われるからなんだ。
そして、この【誘目性】ってのは他の文字との差異が適度にある場合に高まる。差異ってのは違いの差だな。同じゴシック体でも細めよりも太めの文字を使うと一般的な明朝体との太さによる見た目の差が生まれるだろう?これが【誘目性】を上げるってことになる。
※この【誘目性】を最大限に上げる為には文字周りの装飾や空間作りが必須だ。だからデザイナーはタイトルや見出し周りには華美な装飾は避けたり、空間を設けたりする。
そして、【判別性】だ。
これはフォントによって異なるから厄介なんだが、大雑把に言うと、いわゆる「デザイン書体」や「装飾書体」って言われるフォントなんかが判読性が低い傾向にある。「l(エル)」と「I(アイ)」と「1(イチ)」とか。「O(オー)」と「0(ゼロ)」とかな。
「デザイン書体」や「装飾書体」を使いたくなる気持ちも解る。だがその場合、文字列に対して【判別性】の重要度を考えて利用しなければならん。手に入れるとうれしくて使ってしまう。これもデザイン学生や初めてパワポで資料作る奴のあるあるだな。
じゃあ、答えを教えるとすっか。
俺が君におすすめする標準フォントは下記だ。
無論ゴシック体は見出しに、本文は明朝体を使うことを再度オススメする。
〇BIZ UD ゴシック・明朝体(Windows)
あのモリサワのフォントがWindows10以降のWindowsに標準搭載されて話題になったな。
「UD」はユニバーサルデザインの略で、視覚障害者は元より全ての人に対して可読性や視認性、判読性が高くなるようデザインされているから、パブリックな案内などには最適だと思うぞ。
〇 游ゴシック・游明朝(Windows)
Windows8.1以降のWindowsに標準搭載だな。元々は字游工房と言う会社が販売していたフォントだから名前が「游ゴシック」って言う。パワポなどではデフォルト設定になってるはずだから無意識に使ってるんじゃないか?
〇メイリオ(Windows)
Window Vista 以降のWindowsに標準搭載された「MS ゴシック」に置き換わったシステムフォントだな。名前が「明瞭」から来てるのは有名な話。比較的新しいフォントだから視認性も高く設計されていて使い易い。
〇ヒラギノ角ゴ・明朝(Mac)
大日本スクリーン製造(現: 株式会社SCREENグラフィックソリューションズ)の依頼で上記「游フォント」の字游工房によってデザインされた文字。Macユーザーには古くからなじみの文字だ。
個人的にはMacだと昔のシステムフォントの「OSAKA」とか好きだったんだけどな。
※どうでもいい豆知識:実はmacには「Sapporo」とか「Kyoto」ってフォントもあったのご存じでしたか?漢字Talk6以前、旧石器時代の話です。ちなみに英語のシステムフォント名が「Chicago」。このシカゴの姉妹都市だったから大阪になったっていう都市伝説もあるみたいです。
そして君がもし、所属している組織に抗えるならば、下記も教えておくとしよう。
ただし、企業によってはセキュリティー、PC管理上の問題で、いくらフリーとは言えどインストールは禁止されてところも多いと聞く。その場合はすっぱり諦めて、上記の標準フォントで今後も戦ってくれ。
じゃあ、君にとっての新しい戦力達だ。
おすすめのフリーフォント
世の中には「フリーフォント」ってのが数多存在する。文字通り、無料で使えるフォントだ。もしそれぞれが使ってるPCに新しい武器となるフォントがインストールが可能ならば、商用の可不可だけは気をつけつつ、見出しやタイトルに使い易いデザインフォントや、本来大手フォントメーカーが数万円で販売していたフォントが無料で使えるものまである。
俺のオススメのフリーフォントを紹介しておこう。
〇Google Fonts(商用利用〇)
文字通り、Google様から我々庶民共に無料で施して頂いているフォント群だ。笑
元々個人が開発したフリーフォントも入っているが、Google自体がWEBフォントとして開発したもの、個人配布のフォントがGoogleと共に改善し、視認性を上げたフォントなどが多数あるぞ。
ただ、フィルターでJapaneseを選んでも他の言語も出てくるのはご愛敬だ。
https://fonts.google.com/?subset=japanese
〇源ノ角ゴシック(商用利用〇)
これは実はGoogle Fontの中の「Noto Sans Japanese」ってやつと同じっちゃ同じだ。元々はAdobeがGoogleと共同開発し、中国語や韓国語などの文字も含まれるのだが、その中の日本名としてはこの名前で広がっている。使ってる奴も今じゃかなり多いと聞く。
(下記リンクはgithubに飛びます)
https://github.com/adobe-fonts/source-han-sans/tree/release/SubsetOTF/JP
〇コーポレートロゴ(商用利用〇)
特徴的で多少クセのあるフォントだが、その人なつっこい文字形状は使い易い。
あまり遊びすぎてないのもあって、ロゴやタイトルなどの見出しに使うと良いんじゃないかと思う。
ゴシック体
https://logotype.jp/corporate-logo-font-dl.html
丸ゴシック体
https://logotype.jp/font-corpmaru.html
明朝体
https://logotype.jp/osusume-font-corpmin.html
〇LINE Seed JP(商用利用〇)
名前の通り、君も毎日使うあのLINEが開発したフォントだ。
しっかり作り込まれていて、今後普及するんだろうと思ってる。
https://seed.line.me/index_jp.html
〇その他、フリーフォント紹介サイト
2024年用、日本語のフリーフォント699種類のまとめサイト。
https://coliss.com/articles/freebies/japanese-free-fonts.html
【全部無料】おすすめの日本語フリーフォント76選【商用利用OK】。
https://321web.link/free-fonts-japan/
他にも高速道路行き先表示のフォントや図面用のフォント、有名マンガのタイトルを模したフォントなど沢山あるが、ダウンロードして使うのは自己責任で頼むぜ。俺が全フォントを把握している訳ではないのでな。
いいか?こっからが注意事項だ。
君がこれらのフォントを手に入れたとき、なんとも言えない無双感などに包まれ、無謀な使い方をしがちなのはさっきも話した通りだ。
とにかく使い方を間違えると、とんでもないことにありがちで、そんな屍共を数多見てきたんだ。だから、ここまでこの愚文に付き合ってくれたのなら、このまま最後まで付き合ってくれる事を祈る。
最後のアドバイスを君へ
「フォントは1文書の中で基本は3種以下に押さえるべし!」
基本はこれ。沢山使いすぎないこと。
文字の太さもできるだけ数個のパターンに抑える。
これでかなり見た目がまとまるんだ。
文字の太さのことを「ウエイト」って言うのだが、そのウエイトに関してはある程度種類を使ってもいいが、それも煩雑に使うと、ガッカリになることを覚えていてほしい。
次がこれだ
「デザインフォントを本文や読ませたいテキストに使うな」
判読性が低いので避けるべし。ようは使い所を間違えるなってことだ。先ほども書いたが、「デザイン書体」や「装飾書体」と言われるフォントは【判別性】が下がる傾向にある。全体の心象を作るのもこのフォントではあるのだが、その心象と判読性はトレードオフであることを認識しておいてくれ。
これら特徴的なフォントは見出しにすべし。余程の意図が無い限り本文では使わないことをオススメする。
最後にこれ。(これは賛否あるが、俺は心がけてるって話)
「数字は半角にする!」
もちろん揃えるだとか、あえて視認性を上げるために全角にする場合もあるのはあるが基本は半角だ。あと少しマニアックだがデザイン系の人間なら数字やアルファベットは日本語に対して少しだけ小さいので、個々にフォントサイズを調整することもある。まあ、出来る出来ないは使うソフトにもよるから、そこまで合わせられたら最強だ。(InDesignやIllustrator使ってるならって感じだ)
君のマインドシフトが世界を変えるかも?
普段、まったく意識せず使ってしまってるフォントのホントの話。
君が誠心誠意を込めて作った資料、プレゼン資料もその安易なフォント選択によるイメージダウンによって不採用や心象が必ずしも良くなくなってしまってるものは無いだろうか?
もし、今後君が生み出す資料などが「ちょっとだけ素敵」になったら、俺の目指してる愛媛県民のデザインリテラシー向上がちょっだけ進むのだ。そして俺は、愛媛の賢人の達のもとに召されるであろう!
いや、まだもう少しだけ生きさせていただくがな。