ご挨拶
2回目のコラムを書かせていただきます。前回大好評(?)だった心臓シリーズをやろうと思います。第2弾は私の超専門分野である不整脈に関してです。
最も多い不整脈=上室期外収縮
皆さんは不整脈をお持ちですか。持っていないと答える方もいるかもしれません。しかし、実は不整脈を一つも持っていない人はほとんどいません。一番よくあるとされる不整脈は、上室期外収縮と言って心臓の上の部屋から脈がちょっと早めに出てきてしまうものです。
これはほぼすべての人が持っているといっても過言ではありません。心臓は機械ではないので期外収縮の1発くらい出てもおかしくないですし、ほとんど症状もないので気づかなくても当然です。基本的には放置可能な不整脈ですが、あまりにも多発する場合は「心房細動」という不整脈に進化する可能性があるため注意が必要になります。
心房細動って何?
今回の話はこの心房細動になります。
心房細動とは、心臓の上部にある2つの部分である心房が異常に速くかつ不規則に動く疾患です。言葉の通り、「心房(=心臓の上の部屋)」が「細動(=痙攣)」しているため心房細動では心臓が効率的に血液を送り出すことができず、心不全や頻脈発作の原因になります。これで命に関わるということはありませんが、心臓の拍出力としては2割程度減少すると言われています。しかし、一番重大なリスクは脳梗塞になる確率が上がるということです。なぜなら心房が細動すると血液の流れがよどみ、部屋の中で血栓を作ってしまいます。それが頭に飛ぶと心原性脳梗塞と言って、心臓が原因の脳梗塞を引き起こします。
心房細動は発作的に出現した場合、その時の心電図をとらなければ診断に至りません。なので、統計的には
(Inoue et al. International Journal of Cardiology 137 (2009) 102–107)
このように日本の患者数は100万人前後というデータがありますが、実はもっと多いと考えられます。おそらく、気のせいや精神的なものでしょうと見逃されている心房細動もあると思います。さらにこの病気の厄介な点は、年齢が上がるだけでもそもそもリスクになるということです。下の図を見てもらえればわかるように、年齢とともに発生するリスクが高くなります。後は過度なストレス、睡眠時呼吸、飲酒、肥満なども心臓に負担をかけ、心房細動発症のリスクになります。
(Inoue et al. International Journal of Cardiology 137 (2009) 102–107)
心房細動の早期発見
ではまずどうすれば、心房細動を発見できるのか。症状が出たら病院に行くというのは当然ですが、ぜひ検脈をしてみましょう。
脈をとりやすいのは橈骨動脈と頸動脈です。橈骨動脈は手の血管で、親指の付け根の手首の辺りに反対の人差し指と中指と薬指を添えて測定します。頸動脈は首の血管で同じ側の人差し指と中指を喉仏のすぐ横あたりをちょっと押さえれば測定できます。どちらも15秒測定し、4をかければ1分当たりの脈拍数が計算できます。「ドキドキする感じ」で測定する人がたまにいますが、人間の感覚は全くあてにならないのでちゃんと測定してきていただけると参考になります。測ってきた脈拍が220-年齢(例:70歳なら150)以上の脈拍は異常であり、何らかの(気のせいではない)頻脈である可能性が高いです。
心房細動の治療と予防
心房細動の治療方法には、薬物療法、手術療法、カテーテルアブレーションなどがあります。
薬物療法は、脳梗塞予防としての血サラサラ薬です。昔はワーファリンという薬しかありませんでした。これは定期的に採血が必要なのと納豆を食べたら効果が減弱するため食べられないという問題点がありました。しかし、近年新薬が出現し、新規でワーファリンを処方することはほとんどなくなってきています。新しい薬は出血のリスクが少なく安全に使うことができ、納豆を食べても問題ないという、非常に使い勝手のいい薬が発売されています。またカテーテルアブレーションは近年出てきた心房細動を治すカテーテル術です。薬物治療よりも高い治療効果があり、年々数が増えております。
心房細動を予防するためには、心房細動の予防に関しては過度なストレス、運動負荷、肥満、飲酒、睡眠不足、睡眠時呼吸などの改善が有効です。逆に言うとこれらを正すだけでも、心房細動が出なくなることすらあります。
終わりに
少し専門的な話になってしまいました。最後にちょっとした小ネタですが、心房細動の罹患率はネズミでほぼ0%、人で数%、馬でも数%、クジラは約半数だそうです。つまり体が大きいほど心臓の電気的な流れを正常に管理できないらしいです。
最後に、不整脈があるよと言われたことがある人は何の不整脈なのか、ぜひ主治医に聞いてみてください。不整脈で相談される側(私たち専門医)からすると、「不整脈と言われたことがある」と言われてもなかなか参考にならないことが多いのです。