Column

たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

ちいさな港まちの、ちいさな玄関口からできること。

そこかしこで、3年ぶりの花火ですね。
港からの風が吹き抜ける窓を開けていると、「今年は花火あるみたいやで」
近所のおばちゃんたちが交わす会話も少し弾んでいるように聞こえます。
小さな祭事に浮き足立つ北条のまちに、夏が史上最速でやってきたそうです。
かつての人々の営みが少しずつ戻ってくる様子を、汗のにじむ肌で感じています。


回復の見通しがたたないと途方に暮れていた観光業ですが、
各地で趣向を凝らした観光キャンペーンが、もはや誰のためなのか1年も延長されているなか
周りを見渡せば、出入国が徐々にカジュアルになってきたのを身近にも聞くようになりました。
そもそも、景気や情勢に左右される観光業は、見通せないことが前提のなりわいですね。
私はそんな盛者必衰で諸行無常なこの仕事が好きで、学生の頃から携わってきました。

騒がしい世間に耳をそばだてる一方、私にとって8年ぶりの北条の夏は、幼い頃とずっと変わらず、
鳥の鳴き声と船の汽笛、子どもたちの遊ぶ声が聞こえてくるばかりで、肩透かしをくらっています。


この3年、きっと多くの人が感じたことは、
直接会わなくても、その場にいなくても、
わりと結構、なんとかなるということ。
でもやっぱり、「会わないとわからない」ということ。

時代の波に合わせて旅のスタイルは変わり続けていくものですが
「会いたい」がこれからの旅の原動力になると考えると
小さなまちにとって大きな契機のような気がしています。
そうなると、今はっきりしておくべきことは
一過性の需要の波への備えではなく、どこの誰に何を届けたいのか。


文化の交流地点、門司港が教えてくれたこと

私が直近で3年間ゲストハウスを運営していた北九州市の門司港は、観光地の華やかさと、商店街の下町情緒をバランスよく味わえる、旅と暮らしの交わる港まち。
かつては貿易の港として栄えていたせいか、人々は気さくでラテン気質すら感じます。
過ごしやすい季節には毎週末海岸沿いでコンサートやマルシェイベントを楽しめて、
昔ながらの商店街を歩けば、食べるものも、身につけるものも、作り手の顔がドアップにわかるものばかり。

人と自然と季節の循環を感じる暮らしに楽しみを見出し、移住してきた人も3年間で随分と増えました。
私もこのまちの文化の色香と、あったかいご飯に味をしめて、門司港で暮らし働いていた人の一人です。


地域に根ざした宿の店長として、ここに集まる人と多くの夜をシェアして、このまちが回る仕組みに気付きました。
私が眠る時間に起きて働く人がいる。今日を頑張る人のために店があり、店に行くために今日を頑張る人がいる。静かな夜に灯される明かりに、集まって分かち合う暖かさに、心から癒される人がいる。

狭い地域なんだから当たり前と言ってしまえばそれまでですが、
狭いからこそ、初めて来た方も、1泊からでも、その地域のシルエットをつかみやすいと思うのです。
訪れた人に手探りでまちの魅力を知ってもらえるような、
時々私も虫眼鏡を持って一緒に探しに行けるような旅を提供してきました。

ゲストにとってまたとない夜をお預かりして、新たな出発の背中を押す。
世界と私たちの距離がどれだけ近づいても、人と人との交わりの形がどのように変容しても、
宿の役割はこれからもずっと変わらない。
その中で、「また会いたい」のサイクルを生み出す門司港の人の背中に、
「また来たいと思われる」宿の永年のテーマのヒントを見出しました。

生まれ育った港まちから、少しずつ確実に点を打つ。

市場経済の顔色を伺えば人を呼び込める時代に、
どうしても市場で価値がはかれない大切なものがあること。
それに私たちは気づかないふりをしているから、時々言葉に詰まるときがあります。

その感情を言葉にするまでもなく、心の中に浮かび上がったまま大切にしてもらいたい。
旅を終え、帰路について日常に戻り、ふとした瞬間に思い出す景色があって、
音があり匂いがあり、そして思い浮かぶ誰かがいる。
旅を通して私が伝えたい価値がそこにあります。
近所のバーのマスターや、人生経験豊富な女将さんのアドバイスよりもずっとずっとパンチは弱いですが…。
宿は限りなく言語に遠くて、でも一番あなたに近い存在として寄り添ってきました。

ゲストハウスを通して、それぞれのまちと人の織りなす文化を、多くの人の心に残していきたい。
そう思うと居ても立ってもいられなくて、門司港を離れて自分で旗を立てることにしました。
その最初に漕ぎ出す場所として、生まれ育った北条を選んで今に至ります。
よりによって、町内みんなが私のことを幼少期から知ってるというド地元、
北条港のド真ん前で始めることになるとは思ってもみなかったことですが…。

最後にちゃっかり宣伝をさせてください

今私が、北条港沿いの元駄菓子屋さんをリノベして作っている
喫茶店とおみやげのセレクトショップ「PUBLIC HOUSEはま」は
歌っても踊っても、話しても話さなくてもいい。何にでもなれるし、何かであろうとしなくてもいい場所。
大学を休学して約1年を過ごしたアイルランドのパブ文化にインスパイアされて、そう名付けました。
宿としての展開は少し様子を見ながらですが、来年には一組限定の宿として泊まっていただけるように考えています。

ご興味を持っていただけた方は、クラウドファンディングのページを読んでいただけると嬉しいです!
記事がどうしても長くなってしまうこと、前もっておことわりを入れておきます…。しかし応援していただける方とは、さらに長くゆるやかな関係性をきずいていきたいと思っています。
「なんかよくわからんけど頑張れよ〜」と、心にとどめてもらえるような温度感がありがたいです。

今後とも、よろしくお願いします!

ABOUT ME
長野 さくら
2022年の5月に、福岡県北九州市から地元の松山市(旧北条市)にUターン移住しました。 旅と暮らしが溶け合う、ゲストハウスという壮大な舞台装置に魅せられて、九州の玄関口・北九州の門司港で地域密着型のゲストハウスの店長として、まちと人の交流地点を育ててきました。 北九州を離れた現在は、地元北条の海沿いに広がる夏休みの原風景を残したくて、新しい拠点「PUBLIC HOUSE はま」を作っています。 よろしくお願いします!
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