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たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

ビジネスデザイン

穴とドリルと私

いきなりですが、マーケティングやデザインに関わる人達には有名な「顧客にはドリルではなく穴を売れ」というお話をご存知でしょうか。例えばこんな感じ。

日曜大工を始めたので、穴を開けるためのドリルが欲しいんだよね

店員さん

良いドリルありますよ!
ちなみに開けたい穴は何ミリですか?

(何ミリ…?穴のサイズとかわからんけどどうしよう…)

私の「穴を開けるためのドリルが欲しい」というリクエストに対して店員さんは穴のサイズを質問されました。
しかし私は「日曜大工を始めた」ばかりで、穴の仕様について聞かれてもよくわからず困ってしまう。こんなシーンよくありますよね?なくても続けます。

つまりこの話では、店員さんが聞くべきは穴のサイズではなく「日曜大工でどんなモノを作りたいのですか?」と聞き、そのためにどんな穴→道具が必要なのか?という「顧客志向を持ちましょう」が言いたいこと。
さらに掘り下げるなら、ドリルサイズよりも「何を実現したいのか?」のビジョンを聞くほうが、意識高めの提案ができると考えられます。

  • 何をつくりたいのか?
  • そのためにどんな穴があれば良いのか
  • ひょっとしたら必要な「穴」はキリで開ける程度のサイズかもしれない
  • 仮に必要な穴が少数ならば、ドリルを買わずともお店の”お試しコーナー”で必要な穴を開ければ済む

で、私が言いたいのは「それ、ほんまか?」です。

顧客が本当に求めていることは見えず、顧客すらわからない事がある

私の「主な業務」はクライアントのためにWebサイトやシステムの制作をすることですが、クライアントの課題を解決することが「するべき仕事」です。ある意味「ドリルと穴」の話そのまんまですが、この話のように常に「そもそも」を意識しながら、Webサイトやシステムそのものが目的化しないよう取り組んでいます。
しかし、最近課題や世の中や価値観の多様化・複雑性が増すことで、今まで自分の中にあったセオリーに対して「それ、ほんまか?」と疑いを持つ必要がある場面が増えてきました。

例えば。

さきほどの顧客が欲しいのは確かに「穴」。
いや、ひょっとしたら潜在的に「ドリルを使いこなすカッコいい私(オレ)」を求めているのかもしれない。
そうなると、最も適した提案はドリルではなく「ドリルを使いこなすための機会」か、「カッコイイ私を作るための機会」としての24時間ジムか、鶏ムネ肉&ブロッコリーなんて事も考えられます。

顧客が本当に求めているものは、実はドリルでも穴でもなく筋肉かもしれない。

話が飛躍したので戻します。

他にもいろんな「本当に求めているもの」に思いを馳せると、提案は「モノ」だけでなく体験、いわゆる「コト」も含まれます。

  • 高品質のドリルが欲しい → プロ仕様または多機能な製品【モノ】
  • 素人でもそれなりのものを作りたい → はじめてのDIY工具&材料セット【モノ】
  • いろんなモノを作れるようになりたい → DIY教室【コト】
  • 作ったものを自慢して承認欲求を満たしたい → DIYコミュニティ【コト】
  • 日曜大工の知識 → おすすめYouTube、書籍、フォローすべきSNSアカウントなど【コト】

潜在的なニーズや課題の核心を見つけるには、クライアントへのヒアリングや事前のリサーチによる情報収集を行い、発見した課題の解決法や理由は論理(ロジカル)により組み立てます。これは訓練により一定鍛えることができるのですが、生成AIが一気に加速した2023年に感じたことは、ロジカルさを超えた共感力(エンパシー)といった心理的な潜在領域を理解し、顕在化するといった「人間にしかできない力」が必要であること。
この定量評価できない、正解がなくAIにも考えられそうにない予想外を発見するといった「あいまいな能力」の価値が、今後改めて見直されていくと感じました。

「見えない」を「観える」に結びつける共感力

目に見えない感情に共感し、伝えるにはどうするか?

共感を表現する簡単な言葉として「わかります」「なるほどですね」「いいね」「エモい」といった短い単語がありますが、こういった雑な語彙だけでは「ほんとに分かってる…?」と相手も受け入れてもらえないでしょう。

このような「目に見えない深い領域の感情(ニュアンス)」は、いわゆる「氷山モデル」で例えます。
海面に浮かぶ氷山には「見えないけれど存在する部分」がある。という事と同じで「ドリルが欲しい」という言葉の奥にも文脈・経緯・ストーリー・価値観・美意識といった見えない部分が存在する。といった具合です。

海に浮かぶ氷山の下には巨大な氷塊がある

仕事の上で、具体的な解決策・最適解を導くことは大事なのですが、求めているのは「そう!私が言いたかったのはそういう事なんですよ!」という共感という感情をミックスするという人間臭さ。

これを実現するための要素を3つ考えてみました。

  • 1. 専門領域に関する知識→インプット
  • 2. 自ら体験したり、他者体験を聴く→エンパシー
  • 3. 言語化・図解などを通じた伝える力→アウトプット

1つめの「専門領域の知識」があると、単純に眼の前の状況を解像度高く理解し、要素分解し、的確な課題解決策を導くことができます。

2つめの「自らの体験」や、身近な人から「こうだったよ」といった話を聞いていると、単純な理解だけでなく「そのときどう感じたか?」の感情を加えることができます。

3つめの「言語化・図解」は、提案する(伝える)人には欠かせないコミュニケーション技術。これにより「つまりこういうことですか?」を的確に伝えることができます。

1つめとこの3つめは日々様々なところで言われる事かと思いますが、2つめの「体験」が、最も「共感力」と結びつくものであると考えています。

結論:共感力を養うには?

しかし、単にひたすら体験を重ねるだけで本当に共感を生み出すことができるのでしょうか。
映画、音楽、本・漫画、アニメ、芸術を観る、歌う、運動するといった感情を刺激する機会をつくるという方法もあります。

このようなフィジカルな体験だけでなく「そのときどう思った?」といった感情を言葉にすることが「共感力」につながると考えると、自分の感情に目を向ける「感情の観察力」を身につけることが共感力の源になると考えます。

一言でまとめると「素直さ大事やね」ってことです。

ということでおすすめの書籍入れておきます。

機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方/秋田 道夫 (著)

題に「デザイン」って入ってますが、デザイナー関係なくいいお話で、なんだかいい人になれそうな気がします。

ABOUT ME
町田 祐一郎
1980年生まれ 専門学校卒業後、大阪の会社でWebデザイナーとして社会人スタート。 大阪でWebデザイナー、神戸でWebデザイナー、大阪でWebディレクターと関西圏でWeb制作のキャリアを積む。 2012年に愛媛に移住し、同時に株式会社アイムービックに入社。 ディレクターとして自治体、企業のWebサイトの企画設計、リニューアル提案、制作ディレクションに携わっています。 大阪でのマーケティング会社在籍の経験を活かし、マーケティングとWebの知識をバランスよく配合し、生々しい現場のための現実でロジック立てた企画を組み立てるのが好き。 たてヨコ愛媛では、たてヨコ愛媛のWebサイトや松山テイクアウト部のWebサイト制作も担当しています。 愛媛に移住して8年経過して今なお関西弁を使いますが、そんなボケまくったりしません。どっちかというと恥ずかしがり屋の人見知りです。
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