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たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

航海から学んだ、社会でのBRM活用法

新年早々衝撃の幕開け

2024年の幕開けと共に、石川県能登半島は、マグニチュード7.6の強烈な地震に見舞われました。この災害は、日本全国に衝撃を与え、多くの建物の倒壊、火災、そして人々の生活に深刻な影響を与えました。
犠牲となった方々に心よりお悔やみ申し上げますとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

また、2日には日本航空516便と海上保安庁の航空機と衝突するという、信じられないような事故も発生しました。
すでに海上保安官を辞めている私ですが、羽田航空基地に所属する職員の中には知り合いも多くいるため、正直この時ばかりは「自分が知っている人が乗っていたらどうしようと」という気持ちでした。

海上保安庁の航空機事故は2010年8月に広島航空基地所属のヘリコプターが香川県沖の瀬戸内海で墜落し5人が死亡した事故がありました。
当時の教訓を生かして組織の中では「事故は起こさない」と強い信念を持ち仕組み作りがされていたはずなのに、、、今回の事故が起きたことは非常に残念です。

さて、このまま「航空機事故は何故起きたのか?」についてお話しする流れなのですが、、、致しません!
というのも、私は一度も海上保安庁の航空機に乗ったことがないので、航空機事情についてよく分からないのです(汗)

とはいえ、もしかしたら原因の一つだったかもしれない・・・と個人的に思っていることもあります。
それが「BRMが機能していたのか?という点です。
元海上保安官の立場から思うことをお話しさせていただきます。

BRMとは?

ビジネスシーンでBRMと聞くと
・Billing and Revenue Management(請求・収益管理)
・Business Risk Management(ビジネスリスク管理)
を思い付かれる方も多いかと思います。
・・・すみません、私は全然知らず、「BRM」をGoogleで検索したら、上の方に表示されたので、そんなんもあるのかーと思いつつ列挙してみました。

私がお話しするBRMとは、海運業界で用いられています

Bridge(ブリッジ):船橋内における
Resource(リソース):船橋配置者が 知った情報、抱いた疑問など
Management(マネージメント):船橋配置者同士にて有効に運用する

という意味です。
ちなみに、航空業界の場合はCRM(コクピット、リソース、マネージメント)と表現されることもあります。BRMはこれらの要素を統合し、リスクを最小限に抑えつつ、最大限の効果を発揮するための方法論です。
海上や空で事故が発生した場合は重大事故につながる可能性が高いので、事故を防止するため1990 年代中頃に外航船に対して導入された考え方です。

航海での使われ方

BRMの話を続けるために、簡単に船の操船はどのように行われているのかを少しご紹介します。
船の規模、船の大きさ、通航する海域の広さ、組織的な事情等々で違いはありますが、船を運行する際は1人〜3名程度が船橋に集まって操船をします。
私は巡視船での船員を経験しているため、民間商船を経験された方からすると、違和感を感じるかもしれません。
官民のハイブリットの話しとしてご理解いただけますと幸いです。

船の操船の話に戻ります。
船橋内で3名が配置された場合、役割分担としては以下の通りです。
操船指揮者:船を安全に航海させるための状況判断を行う。いわゆる航海士。
甲板員1:操船指揮者の指示に従い、舵を切ったり(車で言うところのハンドルを操作する)、目視での見張を行います。
甲板員2:レーダーや目視での見張りを行います。

船は車のように一人で動かすのではなく複数人で情報を共有しながら運航するのが基本となります。
船の運航は見張りが基本なのですが、見張りをして収集すべき情報は意外と多く、海上での運航ルールを定めている海上衝突予防法には
「船舶は、周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて十分に判断することができるように、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りをしなければならない」
と規定されています。
つまり、考えられる全ての方法を使って見張りを行うことが求められています。

そして船橋にいるそれぞれが見張りを行い、得た情報を共有することで安全な航海ができます。
この情報共有を適切に行うことがBRMの要点となります。

羽田航空機事故とBRMの関係

羽田航空機事故が生きた要因の一つに「機長が管制官からの指示の内容を勘違いした」という報道があります。
これは当時の通信記録が公表されていることに基づいています。
私はパイロットと管制官の通常のやり取りについて詳しくは知りませんが、解説記事等を見ると、機長が勘違いをした可能性は高いと感じています。

この通信は、他のクルーも聴いていたはずです。
ただし、航空機の交信は英語で行われるため、パイロット以外のクルーが内容を理解できなかった可能性もあります。
しかし、副機長は内容を理解していたはずです。
他のクルーも交信内容は聞き取れなかったにしても、普段と違う離陸の動きに違和感を感じていたかもしれません。

今回の事故に関して「人間はミスをするものだから、システムそのものの改善が必要」という意見もあります。
私もこの意見には賛成です。
ただ、もしクルーが普段と違う何かの違和感を感じ、それを誰かが機長に伝えていれば、、、つまりBRMが適切に機能していれば、結果は変わっていたかも知れません。

先日、運輸安全委員会から回収したフライトレコーダーとボイスレコーダーの状態についてのコメントで
「破損に至らない、ぎりぎりの状態。なんとか解析できそうだ」
との発言がありました。
解析が進められ、当時のコックピット内やり取りを明確にされ、今後の教訓につながることを期待しています。

BRMが機能すると

羽田航空機の事故についてはこの辺で終わりにし、BRMに注目したいと思います。
BRMが適切に機能すると、チームワーク、コミュニケーション、状況認識、意思決定といった複数の側面を統合し、船橋(ブリッジ)での人的資源、情報、機器を最適に利用できます。
たとえ1人が航海に必要な情報をより多く集めたとしても、その情報が適切に処理されることが不可欠です。

例えば見張りに使われる主な手法としては、
・目視
・双眼鏡(目視)
・レーダー
があります。
レーダーが広範囲の情報を得られることは事実ですが(島の場所、他船の動向など)、レーダーにも弱点があります。
水上バイクや背の低いプレジャーボートはレーダーに映らないことがあります(海に浮いているブイも映るのですが、気象条件によっては小さいものは映らないことが多いです)。
その弱点を補うために目視での見張りが必要になります。

これらを先述した役割分担にて実施し、情報を集めます

例えば、レーダーで遠くの船との衝突の危険があるが、進路を変えると目視で見つけた近くのプレジャーボートに近づいてしまう場合、「こっちの針路にしようか」といった具合に総合的に判断できるようになります。

BRMが機能しない理由

BRMはしばしば機能せず、事故が起こることがあります。
機能しない理由としては様々あります。
不適切なリーダーシップ
チームワークの欠如
状況認識の不足
操船に関するトレーニングや教育の不足
私の船乗り経験からすると「不十分なコミュニケーション」が主な要因だと考えています。

特に船乗りは同じ乗組員同士が24時間、同じ空間で寝食を共にします。
そうすると人間なので、お互いの好き嫌いという関係は出てきてしまいます。
仕事にプライベートな人間関係を持ち込むべきではないと思いますが、完全に排除することは難しいです。

私の経験から言うと、もう一つの不十分なコミュニケーションの原因として「不適切なリーダーシップ」もBRMを機能させない主な要因だと考えています。
やや極端な例になりますが、例えば航海中に甲板員(部下)から航海士(上司)に
「レーダーで右から小型の船が来てます」
という情報共有をしました。
その報告に対して航海士が
「いやいや、今更そんなん言われても、俺なんかそーとー前から知ってたで」
という返答をしました。

甲板員(部下)の見張り技術向上のために教育は必要ですが、このような受け答えを何度も繰り返されると、甲板員はその航海士(上司)に情報を共有することを恐れ、結果として船橋内のコミュニケーションが不十分になってしまいます。

BRMって船だけの話じゃない・・・?

私は海上保安庁で15年間勤務していました。そのうち7年間は船に乗り、残りの8年間は陸上職員として勤務しました。
(陸上職員ってなんぞや?についてお話しすると長くなるので、またそのうちご紹介できればと思います)

初めて陸上職員になった時、船上での仕事とはまったく異なる進め方に戸惑い、苦労したこともありました。しかし、船と変わらずに重要だったのがBRMでした。

陸上職員としては、多くの仕事を個人で進めます。
それでも、上司や所属部署への情報共有の必要があり、関連部署との調整も重要です。
外部機関と連携したイベントや企画を進めることもありました。

船乗りとしてのBRMではなく、陸上職員としてのBRMを意識するようになってから
・各チームメンバーの役割と責任を明確にし、協力して目標を達成する環境を作ること
・意見や情報の自由な交換やオープンな対話ができる環境作り
に取り組むことで、協力的で効率的な職場環境を築くことができるようになりました。

現在はフリーランスとして個人での活動がメインにしていますが、一人でできる仕事には限りがあります。
今後、さまざまな方の支援を受けながら日々活動していく中で、引き続きBRMを実践していくことが重要だと思っています。

最後に

今回は私が海上保安庁時代に意識していたBRMについて、お話しさせていただきました。
おそらくこういったコミュニケーションの重要性についての話は、皆様の職場でも大切にされているのではないかと思います。
しかし、オンラインでの関係性が当たり前になった今、コミュニケーションの機会が減ってチームワーク力が落ちてきたと感じることはないでしょうか?

そんな時におすすめな方法があります!
その方法とは、、、夜間連携訓練!!

それでは、2月のBLAST NIGHTも参加せていただきたいと思っています!
皆様よろしくお願いします!
(夜間連携訓練についてはこちら

ABOUT ME
横山 慶
高卒で公務員(海上保安庁)となり15年・・・2022年3月で退職しました。 現在はフリーランスで動画編集をしています。 最近は撮影にも挑戦中です! 少々人見知りな性格ですが、皆さんとお話しできることを楽しみにしています!!
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