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たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

教育ビジネスデザイン

「企画書のつくりかた」セミナーの講師をやって思ったこと

久しぶりにコラムを書く機会をいただきました。(1回締め切りを飛ばしてしまい、大美さんに助けていただきました。いつも本当にありがとうございます!)
本コラムでは、今年の5月に「刺さる企画のつくりかた」をテーマに企業様に向けて講師としてお話する機会をいただき、プログラム作成時に考えたこと、やってみて振り返って思ったこと、そこから派生した展開、自分に感じた可能性なんかを書き綴ってみようと思い、ひさびさにライター挙手をしました。
お読みいただいた方に何かしらのヒントとなれば嬉しいです。

「刺さる企画書のつくりかた」をつくりはじめるまで

普段の仕事では、企画を立てる前のリサーチや分析、課題整理と改善提案といった事も行いますが、目的は企業や自治体のWebサイトや、製品紹介・採用・コミュニケーションなどのWebコンテンツの企画・設計、業務システムの画面設計など、「具体化して成果を出すための作戦づくり」といった実務領域が多いのですが、今回のオファーは「つくりかたを伝える」というあまり機会のない領域。

つくることが多い手前、企画や提案書をプレゼンテーションする機会はあります。プレゼンの目的は「なるほど。それいいね」と納得してもらうこと。
対して、今回は聞き手の「できる」が目的・目標地となるので、一方的に伝えるだけでなく、相手が理解・納得し、さらに「どうすればできるか」がイメージできて行動する事。でも、企画づくりなんて不確実性がすごい複合技術なので、色んなケースに対応できるように経験を積み、技術を積み上げていく必要もあるから、当日以降の時間軸を考えて「鍛え方」も持ち帰られる内容にしたい。

さらにセミナーの聞き手もさまざまです。
「これから」企画を立てる若手の人もいれば、ガンガン企画を作ってきた「ベテラン」の人もいらっしゃいます。年齢の幅も広い。むしろ同世代(40代)以上の人が半分以上。

ん?ちょっと待って。
そんなベテランに今さら「これが企画作り方です!」とか、企画づくりの権威でも専門家でもない人間が何を偉そうに講釈を垂れられるというのか。むしろ私が聞きたい。あぁもうおこがましくて気絶しそうです。

スライドの冒頭で、おこがましい気持ちを全力でお伝えしました

しかしそうも言ってられない。
どうするか。
視点を置き換え「もし自分がこのセミナーを受けるとしたら?」と考えると、どんな事が聞きたいかが少し見えてきそうです。

  • 自分自身は企画を作ってきた
  • 自分は企画をつくることはできる(自信過剰)
  • 所属する会社のメンバーも増えてきた
  • 後輩や他チームでも「企画」をつくる機会が出てきた
  • 専門分野以外の企画に対しても質の高いフィードバックをしたい

ここから2人の人物像が見えてきました。
1人目は20代の頃の自分に近い「企画をつくる”プレイヤー”」
2人目は最近の自分に近い「他者がつくった企画にフィードバックをする”コーチ”」
伝える相手が見えてくると、俄然中身も組みやすくなってきます。

「刺さる企画書のつくりかた」のプログラムづくり

目的・目標と相手の人物像が見えてきたら、いよいよスライドを作っていきます。
とはいえいきなりパワポ(私の場合Googleスライド)を開いて作り始めるのではなく、全体の流れをつくってから詳細を作っていく流れとなります。

  • 今まで自分がやっていた企画づくりの工程を書き起こす
  • どんな観点を立て、どのように情報を集めているのか
  • どう考え、どう組み立て、どう練り上げるのか
  • よく使っているフレームワークはないか
  • 「読みやすい」と言われる企画書のコツってなんだっけ
  • 思考のフレームワークもあるよな
  • 課題への向き合い方
  • 鍛え方

などなど、ブレスト的に書き出してグルーピング&箇条書きにします。
こういうのは勢いが大事!ブワーッと進めます!

多すぎます。やっちまいました。
こんなん90分で伝えても何も残らんよ。

改めて目的である「できるようになる」に立ち返り、使用頻度が多く優先度・重要度が高く、覚えやすく使いやすい内容に絞ります。
シナリオは、聞き手が主体的になるよう「聞く→実践→フィードバック」を繰り返すサンドイッチ構成にし、時間配分も含め組み直し最終的に4ブロック構成になりました。

  • 覚えておきたい鉄板フレームワーク2選
  • 複眼的に考える「目」の話
  • 刺さる企画を考える
  • トレーニング方法

そして完成したハンズオン版のスライド。鉄板フレームワークを2つ入れました。

プログラムを作る上で意識したこと

セミナーの目的は「つくれるようになること」。仕事だけでなくスポーツも遊びも趣味もすべて同じですが、自分の体を使ってやってみないと上達はできません。

その事を踏まえ、以下のことを意識して内容を組みました。

  • 「聞く」ではなく「参加」を仕掛ける
  • 「分かった」ではなく「これならできそう」につなげる
  • 「やってみよう」ではなく「いまやる」機会を仕掛ける
  • 初心者だけではなく自分と同じように「作ってきた人」に共有したいこと
  • やってみよう→やってみた→思ったより難しい&ここ上手くできた→繰り返しできそう
  • 伝えている自分自身も学習者

私自身、企画を組み立てるときは自身の経験(セミナー・ワークショップ・読書・スポーツ・実践経験など)と、理論やエビデンスを組み合わせ、自分自身が納得したものを提供する事を心がけています。こだわりのコーヒーショップみたいですね。
自分の納得が整ってないものを単に伝えても、心のどこかで「ぶっちゃけよく分かってないんだけどね」「これって何の役に立つの?」と自分でツッコミを入れてしまい、その感情が聞き手にもモロに伝わり場がザワついてしまいます。

実践して体感してもらう事を重要視した考え方は、学習定着率を向上させる方法を図解した「ラーニングピラミッド」や経験学習理論、文科省の学習指導要領などを参考にしています。それぞれどこで覚えたかは記憶にございません。

オンラインでも実施することに!

頑張った甲斐もあり、そこそこ高評価もいただくことができた事をFacebookやTwitterで発信したところ、よく一緒にオンラインイベントを実施している東京のWebディレクターの方とWeb業界の人向けに共同でオンラインセミナーを実施する展開になりました。

Webディレクターの企画術:2023
写真は半年以上前の髪くくってた時のヤツ。

オンラインで実施するにあたって大きな課題が2つありました。

1つめはワークショップができないこと。
元々のプログラムは対面かつワークショップ(実践)ありの構成となっているのですが、オンラインの場合ワークショップができない(究極できなくはないけど中途半端になる)ので、その条件に合わせて再構成する必要があること。

2つめは、基本的に聞き手の顔も見えなくて1人で喋ること。
聞き手の表情が見えず反応が全くわからない中で、時にジョークも挟んだりするとかシチェーション的には壁打ち漫談。(ゆーてリアルでの実施もどっかんどっかん笑いを起こせるわけではないのですが、画面の向こうの失笑すら見えない寂しさたるや。)

スライドは何度も推敲を重ね、時間枠に収まるかリハーサルを行って試し、なんとか無事イベントを実施することができました。お申し込みは200名近くと予想以上に多く、リアルタイムの参加者もMAX100名近くのご参加をいただきました。

オンライン版はワークショップを無くした分、スライドは80枚程になりました。

実施後のアンケートによる学び

リアルもオンラインも、実際にセミナーをやってみると、プログラム作成中には見えなかった気づきがたくさん起こります。この気づきを学びに転換しないと「あ〜頑張った〜俺エラいビール飲んで寝よ」で終わってしまうのはもったいない。リフレクション(振り返り)をして、できるだけたくさんの気づきを言語化して次につなげたい。

リアルで得られる気づきは
「このセクション、前後入れ替えたほうが伝えやすい」
「聞いてる人の頭に “?”が浮かんでたなぁ。伝え方変えてみようか」
「ワークショップ、思ったより盛り上がったけどもっと良くできないか」
「実際に参加者の人が作ったものを共有する時間も欲しいなぁ」
など、聞き手の表情や実践の様子など、ポジティブな改善につなげやすい気づきがたくさん得られます。

一方、オンラインでは
「マイクや画面は問題なく動作してただろうか」
「画面共有でスライドちゃんと出てただろうか」
といった不安や準備に関する気づきが中心でした。

これら「自分から気づける事」、特にオンラインでは得づらかったりします。
そのため、たくさんの改善点を見つけてアップデートにつなげるために各回でアンケートをいただくようにしました。
しかし、アンケートは質問をうまく組み立てないと「良かったです!」「最高でした!」「これでモテるようになりそうです!」など、いい言葉ばかりもらうようにすると、あまりプログラムの品質向上には繋がりません。大人の事情的には、次実施するときに「参加者満足度99%!」みたいな胡散臭い集客見出しが作れる意味では嬉しいですけど。

あくまでアンケートで知りたいのは、自分で気づけなかった「耳の痛〜い」改善のヒント。なのでアンケートをお願いする際は「できるだけ忌憚のないご意見をお願いします!」とお伝えしました。
そしたら本当に「うぐっ!」「ですよね…次回改定します」となるような切れ味のあるご意見もたくさんいただけました。中には完全に賛否意見が割れるようなものも。みなさんやさしい。ありがとうございます。精進します。

で、個人での気づきと客観的なアンケートを組み合わせ、プログラムのアップデートと自己成長のサイクルにつなげます。下の絵は、経験と成長に関する個人的解釈の図です。

(1)理論:書籍やネットや人の話から得られる情報
(2)実践:やってみて理想と現実の差分。「思ってたんと違う」の理解
(3)学び:(1)と(2)を通じて得られる気づき
この3つが「経験値」としてストックされ、経験値どうしが結合し「その人」が形成される。
みたいな。感覚の話なのでしらんけど。

このように、たまに「集中力ってどうやって高めたら良いんだろう?」「耳の痛いフィードバックを取り入れるにはどうすればいいの?」「デザインの”なーんかしっくりこねぇなぁ”の”なんか”って何なん?」など、気になったことや仕組みを調べ、自分なりに解釈したことを図解したり絵にまとめる遊びをしています。iPad mini買ってほんと良かった。

アプリはGoodNotesを使っています。イラスト図解の中に登場する白い子は、うちの娘に「しらたま」と呼ばれています。字が下手すぎますが「味がある」と皆さん褒めてくれます。優しい世界。

改めて感じた3つのこと

その1. 目的の重要性

今回「企画」について、普段の「作り手」としての自分とはすこし違った角度から再解釈する機会をいただきましたが、改めてデザイナーがよく使う思考術「なぜ?(Why?)」「誰のため?(Who?)」を考える癖があって良かったと感じました。

もし、目的や目標なく「企画書の作り方を伝えたらいい」といった感じで「何を(What)」「どう伝える(How)」を軸にプログラムを組んでいたら、教科書どおりの内容を必死に喋る一方で聞き手は睡魔と戦う「のどかな地獄の90分プログラム」を生み出していたと思います。

このWhyを起点とする考え方は、企画やデザインだけでなく、マーケティングでも応用される基本の型で、マーケティングコンサルタントのサイモン・シネック氏によって「ゴールデン・サークル理論」と提唱されています。詳しくは超わかりやすいサイモン氏のTED動画(20分弱)をご参照ください。

その2. きっかけに乗っかる

今回のセミナーは、弊社代表からの「やってみる?」のお声がけがきっかけでした。もちろん「ちゃんとできるかわからない」「私、つくる専門なので教えるとか無理っす」「ほかの案件で忙しいです」といった思考が無かったかと言われると、ありました。そりゃありますよ。

ですが、同時に「面白そう」「”つくる人をつくる”はやってみたい」「感覚的にやってた企画づくりを体系化する」「社内への副次効果も期待できるかも」など、ポジティブな興味が圧倒的に勝っていました。結果的にもやってよかったと思っています。うちの代表、そういうきっかけづくりが本当に上手いのです。

ちなみに「とりあえず乗っかってみるか」的な発想は、イタリアの諺にある「チャンスの神様は前髪しかなく、猛スピードで走り去る(後ろ髪がないので過ぎたら捕まえられない)」もありますが、もっとたくさん知りたい!という方は、よい人生を送るための52の思考法が載っている「Think clearly(シンク・クリアリー)」をぜひご一読ください。

Think clearly(シンク・クリアリー)ロルフ・ドベリ (著)
最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法

その3. その時は無駄と思うことも

今回つくったプログラムの中に、複眼的な思考力を養う方法として「物語(漫画)は目線を鍛える良いコンテンツ」と1枚入れました。同様に、映画や美術やスポーツの体験なんかも、興味にまかせてあれこれ読んできた技術書やデザイン、ビジネス書だけでなく、哲学も心理学も文化人類学も絵本も、経験の全てが学びに変えられると考えています。

なので、仮に「いま使ってない、役に立てていないならそんなの無駄じゃない?コスパ悪いっしょ?」などと質問されると、言いたいことは分からんでもないけど無駄と思っていないので「まぁ無駄と言えば無駄なんだけどねー。」と困ってしまいます。おそらく、そんな質問をされると「無駄ではない!」と答える人も多いと思います。

それは「無駄だと言いたくない」からではなく、実際これまでの読んできた仕事と直接無関係の本も、漫画やアニメもドラマもドキュメンタリーも、すごく嫌で苦手だった中学の社会の授業も、実体験や考察や経験がなかったら、今回のセミナーはきっともっと酷いものになってたと思います。それぞれが記憶に残っていなくても、実務に直接活かせてなくても、積み上げてきた経験は、今その瞬間の感情や思考に何かしらの影響を与えているはずです。

つまり、過去のありとあらゆる経験は活かそうと思う限りいくらでも活かせる。その時は無駄と思う事も、その無駄を積み重ねることで、気がついたら盤石な土台ができあがっている事だって十分にありえます。
「本を読む人と読まない人」で画像検索をすると出てくる風刺画がありますが、個人的な解釈としては、縦だけじゃなくたてヨコ自由に大量に色んなものを積む方が長い目で見て自由に繋がると考えています。
つまりたてヨコ愛媛は以下略

最後に「無駄と思うことが実は重要」って話をされてる著名人の動画貼っときます。

本コラムでご紹介したワークショップつきセミナーにご興味ある方は、ぜひメッセージください!

ABOUT ME
町田 祐一郎
1980年生まれ 専門学校卒業後、大阪の会社でWebデザイナーとして社会人スタート。 大阪でWebデザイナー、神戸でWebデザイナー、大阪でWebディレクターと関西圏でWeb制作のキャリアを積む。 2012年に愛媛に移住し、同時に株式会社アイムービックに入社。 ディレクターとして自治体、企業のWebサイトの企画設計、リニューアル提案、制作ディレクションに携わっています。 大阪でのマーケティング会社在籍の経験を活かし、マーケティングとWebの知識をバランスよく配合し、生々しい現場のための現実でロジック立てた企画を組み立てるのが好き。 たてヨコ愛媛では、たてヨコ愛媛のWebサイトや松山テイクアウト部のWebサイト制作も担当しています。 愛媛に移住して8年経過して今なお関西弁を使いますが、そんなボケまくったりしません。どっちかというと恥ずかしがり屋の人見知りです。
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