外は寒いですね!でもきっとあなたは暖かいお風呂に入って、暖かいお部屋で、温かいコーヒーでも飲みながら、このコラムを読んでいることでしょう。私たちは「熱」のおかげで快適に生きてゆくことが出来ます。本日はこの「熱」をいかにしてつくり出すのか?課題は何か?未来の熱はどうなるのか?など皆さんとお話しできたらと思います。
世の中に熱はなぜ必要か?
私は熱をつくる会社(三浦工業株式会社、以下ミウラ)で働いています。具体的には産業用の蒸気ボイラという商品を使って、世界中の皆さんに「熱」を提供しています。とりわけ日本国内では60%のマーケットシェアをいただいています。
じゃあ、この「熱」が必要なお客さんって想像つきますか?あらゆる産業で熱は必要なのですが、特にたくさん熱を必要とする業界があります。ミウラのお客さんの実に50%はこの業界です。それは松波さんが大好きな、
“食品・飲料業界”
確かにスーパーやコンビニに行くと、ほとんどの食品、飲料は加工されていますよね。コンビニ弁当・冷凍食品・レトルト・缶詰・ソーセージ・カップラーメン・ジュース・水・お菓子・マヨネーズ・アイスクリームなどなど、食品を加工するためには調理や高温殺菌ために大量の熱が必要です。
普段から何気なく口にしてるほとんどの食品・飲料には大量のエネルギーが費やされているということになりますね。
※食品加工だけではなく、肉や野菜の育成プロセスでも大量のエネルギーを必要とします。
あなたのおうちにある熱源は?
次にあなたの家庭に目を向けてください。どういうときに熱が必要で、どうやって作り出しているでしょうか?
このイラストのように色々ありますが、これらは全部、電気を熱に変える機械なんですね。一番分かりやすいのが学校で習った「ジュール熱」というやつで、ニクロム線に電気を流すと赤熱して熱くなりますよね。上の例では電気ヒーターやヘアドライヤーなどがこのジュール熱を利用した機器です。※興味のある方は電子レンジやエアコンの原理も調べてみてください。
ここで知ってていただきたいのは、“電気から熱には(ほぼ)100%の効率で変換できる”ということです。
1kWの電気は1kWの熱に変えられるわけです。
でも、産業用の熱源に電気は使いません。蒸気ボイラや温水ボイラを使うことが多いのです。なぜなら・・・
電気で熱をつくるのはもったいない!
先ほど電気エネルギーは100%熱エネルギーに変換できる、とお伝えしました。では、その電気はいかにして作りだすのでしょうか?実は熱から作り出すんですね(※)。
(※)参照コラム:地上に太陽を作ろう!夢のエネルギー・核融合を知っていますか?
では、熱エネルギーをどれくらい電気エネルギーに変えられるのでしょうか?実は、
わずか30~40%程度!
なんですね。石油や石炭を燃やして高温を作って、お湯を沸かして、その蒸気でおもり(タービン)をぐるぐる回して発電するのですが、そこで発生した熱の60~70%は海や池や空中に捨てられているわけです。
熱の一部をせっかく電気にしたのだから、電気をまた熱に戻すのってとってももったいないですね!じゃあ、なぜ家庭にある熱機器は電気製なのですか?それは、電気は輸送性に優れているからです。伊方で作られた電気は松山まで運べますが、熱は残念ながら運べませんよね。だから、家庭では私たちはもったいない熱、すなわちコストの高い熱、を使っていることになります。
熱は熱のまま使え!
そうです。電気を熱に戻すのは大変もったいない行為なのです。電気は熱として使わずに電車やエレベータのように動力として使ったり、パソコンやライトのように光として使ったりするべきなのです。
熱は熱のまま使うのが一番!家庭にもそうしたものはあります。
こういったものはガスや油が燃焼して発生したエネルギーをそのまま加熱に使いますので、燃料がもつ化学的エネルギーをほとんど有効活用していると言えます。ただ、火災やCO中毒のリスクを考えたり、取り扱いが清潔で便利だったりということで、オール電化とするライフスタイルが人気です。
そして「ボイラ」という機械も、燃料のエネルギーをほぼ100%(※)活用できる熱源なのです。原理詳細は割愛しますが、燃料を燃やして、お湯を沸かして、発生した蒸気を熱源として活用するわけですね。
(※)一般的には燃料から蒸気への効率は、95%~98%程度。
最初にご紹介した食品加工工場などでは、大量に熱を使います。ですから出来るだけ安く効率的に熱を使いたいために、家庭では馴染みのない産業用ボイラというものを使うのですね。大手工場、例えばえひめで有名なPジュースさんなどでは、一日に100万円単位でガスや油を消費するって信じられますか!
以下の(※)はスキップしてもいいです。
(※) 燃料のエネルギーを100%熱に変換できる、と表現しましたが、というより物質を燃焼させたときに発生する化学的エネルギーのことを、その物質の発熱量=カロリーと呼ぶわけです。そして、電気とか、動力とか、光とか、音とか、こうした他のエネルギーの形って、熱に比べて「レベルの高い」エネルギー状態なので、熱量を超えることが出来ないんですね。それが先述の100の熱から30~40の電気ということであり、残りの60~70ってのは熱の残りかすとなるわけです。熱はエネルギーの最終形態という言い方も出来、そう考えると「熱は熱のまま使え」ってのが理にかなっていることがわかりますね。
化石燃料という蹉跌
なるほど、産業界では熱をつくるためにボイラを使うのか!ミウラさんが効率的に安く熱をつくってくれるので、その熱でできたカップラーメンやビールを安く美味しく味わえるわけですね。めでたし、めでたし!
・・・とはいかなくなってきました。
気候変動だ!SDGsだ!脱炭素だ!・・・ 化石燃料は悪だ!
・・・という現実は、間違いなくこれまでの熱のあり方をゼロベースで見直すことを迫っています。
ミウラは産業界の60%の熱源として活躍していますが、逆に言えばそれだけ多くの都市ガスや石油を燃焼させてCO2に変換しているわけです。日本中のミウラボイラが排出するCO2の量はなんと年間3,000万トン、これは実に、
日本全体の排出量の 約3%!
に相当するのです!これって実はN産自動車とかH自動車が排出するCO2と同レベルの、とてつもなく大きな数字なんです・・・。
今までは「低炭素」が目標だったため、効率改善やコストダウンを追求することが正だったわけですが、これからは「脱炭素」。油やガスを燃焼させること自体をやめないといけないわけです。さあ、困りました・・・。
未来の熱源とは?
では、油やガスを燃やさずに熱を取り出す未来の熱源ってどんなものがあるのでしょうか?
(1) ヒートポンプ
これは電気で熱を作り出す装置です。詳細原理は割愛しますが、低温の熱をポンプでくみ上げて高温の熱に変換する技術で、1の電気で最大4の熱が取り出せるというのが特徴です。蒸気ボイラに比べると圧倒的に初期コストがかかること、お湯は作れるが蒸気は(ほぼ)作れないこと、装置がバカでかくなること、などの欠点があります。また、ヒートポンプを動かすための電気自体が再エネ電気でないと脱炭素とは言えません。これはEVと一緒です。
(2) 電気ボイラ
電気式温水器と一緒で、電熱ヒータでお湯を沸かして蒸気を取り出す装置。たいしたことはありません。そしてこれも電気が再エネ電気でないと脱炭素とは言えません。装置はシンプルですが、電気1に対して熱1ですのでランニングコストが大変高くなります。
(3) 水素ボイラ・アンモニアボイラ
一聞すると凄そうですが、ボイラ燃料として天然ガスや石油の代わりに水素やアンモニアを使うだけといえば、それだけです。これも水素やアンモニアを作る過程で二酸化炭素を排出しないのであれば脱炭素と言えますが、グリーンな水素・アンモニアが安価に手に入るのは30年以上かかると私は思います。
(4) バイオマスボイラ
(1)~(3)のような電気や水素を使うソリューションは他力本願的な脱炭素ということになります。そして先述したように、グリーンな電気や水素が安く手に入るには私は相当な時間がかかると思っています。その意味では、それまでのつなぎとしてこの「バイオマス」は個人的にはありだと考えます。
バイオマスボイラというのは「植物を燃料にするボイラ」ということです。植物は成長段階でCO2を吸収して、燃えると吸収しただけのCO2を排出します。したがって、植物を燃やし出たCO2はカウントしなくていい、ということになります。
一番分かりやすいのが、木を燃やす木質燃料焚きボイラ。
日本って戦中・戦後、将来の原料や燃料用途としてたくさんの植林をしました。確かに周囲の山々を見てみると花粉症のもとにもなる杉や高級木材のヒノキが、整然と、ところ狭しで並んでいますよね。今はこれら森林の成長に対して、適切な伐採が追い付かず、日本中の山を覆いつくすほどに成長しています。
森林や山地を適正に保つためには毎年2~4%を間伐する必要があるそうですが、日本ではわずか0.5%程度しかできていないらしいのです。この必要間伐量を利用するだけでも、実は日本中の蒸気ボイラをすべて賄うくらいのエネルギーがあり、これは日本中の消費される化石燃料の5%にも相当します。46%(※)のうち5%は大きいですよね。(※:パリ協定で日本が宣言した2030年時点のCO2削減目標。)
しかしながら難題は、その木を切る人材や仕組みが十分でないこと。そして地形的に間伐が困難。あとは、木質燃料を使ったボイラなどの熱機器は技術的に難易度が高く、初期コストが莫大になってしまう…。なかなか一筋縄にはいきません。
でも、バイオマスって木材だけではありません。ユーグレナで注目を集めるミドリムシや、コンブなどの海藻、日本のどこにでも生息する竹、トウモロコシの芯、お米のもみ殻、中村優理子さんが得意な家庭の生ごみなど、色々あるので夢は広がります。
(5) ヒートパイプ
これは熱を輸送する技術です。発電所や工場などには、ただ捨てられるだけの大量の熱があります。これらの熱をロスなく輸送できればいいですよね。その一つがヒートパイプ。文字通り熱を運ぶパイプですね。
これも細かい原理は省きますが、エアコンやヒートポンプと同じで冷媒と言われる液体がパイプの中をぐるぐる回って熱を移動させます。その際電力を必要とせず、しかも熱損失もほとんどない状態でぐるぐる回るってやつです。
最新の技術では何kmにもわたる距離をほとんどロスなく運べるものもあるようで、今後は都市設計の中でこういう技術もうまく活用したいものです。
(6) 量子水素エネルギー
最後に、今や「ミウラといえば!」と言われるほどに注目を集めているのが、この量子水素エネルギーです。ミウラと東北大学発ベンチャー:クリーンプラネットとで共同開発している技術です。こちらも原理は割愛しますが、水素の量子エネルギーを取り出すことで、単純に燃焼させて得られる数千倍の熱エネルギーが取り出せるというものです。
これは核融合並みの夢の熱源と言えますが、まだまだシーズの段階で実用化はだいぶ先かと。ただ、こうした技術を研究開発することは大事なことですね。
ということで、これといった容易なソリューションはありませんが、とにかく色々とやってみて、合わせ技で解決してゆく必要があると思います。皆さんいいアイデアがありましたら教えてください!
終わりに
ある日、もうすぐ6歳の誕生日を迎える息子にこう聞かれました。「大人はなんで仕事しないといけないの?」と。Very good questionなのですが、私はこう答えました。「別に仕事をする必要はない。国がみんなにお金を配って毎日好きなご飯食べて、毎日遊んでてもいいんだよ。しかし困るのは君たちだ。そうすると君たちが大人になった時に、ご飯や電気やお水が無くなるだろう。しかるに大人たちは毎日未来のために仕事をしているんだ。」と。(※実際は博多弁ですがかっこよく翻訳)
私は日々こういう気持ちで仕事を、いや生活をしています。上に書きましたように、今の仕事を今のままやっていると、自分たちはまだしも未来のためにはなりません。そして熱を専門とする企業としては、上にあるような様々な取り組みを通じて未来の熱源を真剣にそしてスピード感をもって探していかなければなりません。個人としても、日々何気なく熱を使うのではなく、その熱が未来に対してどう影響しているのかを知ることで、使い方や選び方も変わってくると思います。
たてヨコ愛媛も実は同じフィロソフィーで参加しています。サイボウズ青野社長がたてヨコのイベントで予言されました。「このコミュニティは未来の学校を見ているようだ。先生と生徒という形はなく、課題があって答えがない。そんな学校だね。」と。どういう形でそれが実現されるのかはわかりませんが、きっとこれは未来につながるものだと日々ワクワクしながら、こうして皆さんとワイワイやらせてもらっています。
一日2,000kcal程度のインプットでとてつもない熱量のアウトプットをたたき出す、たてヨコの面々。まさに最強のエネルギー変換装置と言えるのではないでしょうか。この素晴らしい熱源を、人的ネットワークというヒートパイプを使って愛媛中に、いや世界中に伝播させていけるとなんと素晴らしいでしょうか。
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今回もしつこい内容のコラムをここまで読んでくださり感謝しています。今年はコラム大賞「テクニカル部門」入賞狙います!(やっぱり「熱工学部門」くらいにしようかな・・・)。
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TATE NAGAFUCHI