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たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

テクニカルSDGs

地上に太陽を作ろう!夢のエネルギー・核融合を知っていますか?

また難しい話じゃないの回の伝熱の話に懲りた人はそう思ったでしょう。しかし、あなたやあなたの子供が2050年時点で生きているのであれば、ぜひ知っておいてください。そのころ、世の中の発電はこの核融合が主役になり、電気はタダ同然になってるかもしれないからです。

ITER計画

出典:ITER Organization http@www.iter.org

30年後ではなく30年前の話です。私は大学生で、原子力を専攻していました。なぜ原子力かと言われると、単純に偏差値が足りなかったからです。当時、日本では原子力に対して根強い抵抗感があり人気のある学科ではなかったので、そこに私は何とか入学できました。

大学4年生から修士課程に至る3年間、私は核融合研究の末端を担うこととなりました。ちょうどそのころ(1990年代前半)、世界中の知恵を結集してこの核融合発電を実現させようという国際プロジェクト、ITER計画が始まりました。当時はこの実証炉をフランスに建設するのか、日本に誘致するのかで駆け引きをしているところでした。

こういう時期に核融合の研究が出来たことは、今考えるとなんとも光栄なことです。そしてその結果エネルギー問題が私自身のライフワークにもなりました。

このITERは総工費2.5兆円というとてつもなく大きなプロジェクトで、2025年に運転開始、10年後の2035年に発電を始めようとしています。さらには国際プロジェクトのスピード感になさに業を煮やしたジェフ・ベゾスやビル・ゲイツなどが、スタートアップを支援して独自に開発しようという動きもあり、技術の加速が進んでいます。

私が学生の時はあまりにも先のことすぎて全然実感がわきませんでしたが、今ではもう目の前まで来ているわけですね。時が流れるのは早いものです。

そもそも電気ってどうやって作るの?

皆さんが普段使っている電気。これを作る方法はいろいろありますが、一番多いのが「おもりをぐるぐる回す方式」。自転車のライトをイメージしてください。とにかく重いものをぐるぐる回すことができれば電気をつくることができます。

火力発電とか原子力発電とか聞いたことあるでしょうけど、共通して言えるのは「熱でお湯を沸かして蒸気の力でおもりをぐるぐる回す」ことで実現しています。日本の電気の80%以上はこうやってつくっています。

で、核融合方式も「熱でお湯を沸かして蒸気の力でおもりをぐるぐる回す」という部分は同じです。

※蒸気を使わなかったり、ぐるぐる回さなかったりする方式もありますが、ここでは考えないこととします。

じゃあ何がすごいのでしょうか?

水を燃やして熱をつくる?

核融合の場合は「熱をつくり出す」方法がすごいんです!

火力発電って今は主流ですが、これは石炭、石油、天然ガスを燃やすので今問題視されているCO2を排出してしまいますね。原子力では安全面での懸念と、核のゴミの問題が深刻です。

しかし、核融合は

  • 安全!
  • CO2を出さない!
  • 核廃棄物が出ない!

に加えて、

  • 資源が無尽蔵にある!んです!

その燃料は何か?なんと海水です!そうです。水を燃やして電気を作るという仕組みなのです。

どうやって熱をつくるのか?

「燃料は海水」と言いましたが、実際は海水にごくわずか(0.015%)含まれる重水素(D)と言われる物質です。これと、携帯電話の電池などに使われるリチウムからつくる三重水素(T)を使います。※重水素も三重水素も水素の仲間です。

これらは世界中に豊富にある資源であり、この燃料がわずか1グラムあれば、石油8トン分のエネルギーを取り出すことができるのです。

皆さん、アインシュタインが発見した法則、E=mC2ってみたことありませんか?

この式って、さりげないけどとてつもない法則なのです。Cって光速のことですから、1秒間に地球7.5周のものすごい速さです。これが二乗ですから気の遠くなるような数字です。Eはエネルギー。mは質量。

この法則のおかげで先ほどの1グラムで8トン、の理屈になるわけです。以下、少し深掘りします。

プラズマって知っていますか?

出典: 2021 BalticNet-PlasmaTec

プラズマクラスターとかプラズマディスプレイとか。プラズマって言葉だけは聞いたことありますよね。

先ほどの重水素(D)と三重水素(T)を使った方式をD-T核融合といいますが、これらの燃料を燃やすのがめちゃくちゃ大変なんです。核融合を起こすには、これらを電子レンジみたいなもので1億℃以上に加熱してプラズマという状態にしないといけません。

さあ、混乱してきましたね。1億℃といえば、太陽(6,000℃)の3万倍。そんな温度有りうるの?とお感じでしょうけど、実はDもTもとっても薄~く存在してるから温度の割には伝熱量がそうでもないのです。

※おっと、ここで出てきましたね、伝熱学!輻射伝熱を考えた際に、温度は高いけど放射率がめちゃくちゃ小さいとお考え下さい。参考→ https://tateyo.co/2021/05/03/heat-transfer/

そして、プラズマって何?これは固体、液体、気体の次の状態と言われていて、めちゃくちゃ高温になった時にそういう状態になるらしいです。普通の物質は原子核の周りを電子がぐるぐる回っている、ってのは習ったことあるでしょうけど、プラズマ状態ではこの原子核と電子がバラバラになった状態です。こういう状態で初めて原子核どうしがくっつく反応、いわゆる核融合反応が起きるわけですね!

核融合反応を閉じ込めろ!

DとTの原子核がくっつく反応が核融合反応です。この時面白いのが、ほんの少しだけ質量を失うんです。1+1が2より小さくなるわけです。ここで失われた質量にC2を乗じた分だけが熱エネルギーとして放出されます。ほんの少しの質量で大量のエネルギーが生まれます。

原子力発電所や原子爆弾で使われる核分裂反応は連鎖的にどんどん反応を引き起こし最終的には核爆発に至りますし、放射性物質を廃棄物して生み出します。しかし、この核融合反応は燃料であるDとTを供給し続けて、プラズマを作り続けないとストップしてしまう、とても不安定なものです。しかも放射性物質を(ほとんど)つくりません。

ドーナツ型の電子レンジ

出典:文部科学省ウェブサイト

現在プラズマを作り出すための最も有力な電子レンジがトカマク式と言われるものです。名前でわかるようにもともとロシアの技術でした。大きなドーナツ状の容器をイメージしてもらえばいいかと思います。

このドーナツの中は真空状態ですが、ここに強力な磁気をかけて燃料であるD-Tを浮かべて閉じ込めます。そこに電子レンジ同様電子ビームを当ててプラズマを作って核融合反応を発生させるんですね。

ここから再び伝熱学が登場!

出典:日本原子力研究所ウェブサイト

ここまで読んでいただき、もういいよ、という人はここは飛ばしていただいても結構です(笑)。ここから私の専門分野というか、好きなところです。

このドーナツ型電子レンジの内側の壁のことをブランケットと呼びますが、何もしなければ1億℃のプラズマの輻射熱を受けてめちゃくちゃ熱くなります。これを冷やしてくれるのが、空気でも、水でもなく、液体金属(決まったわけではないが有力)なのですね。ブランケットの内側に液体金属 (水銀みたいなものをイメージください)をぐるぐる回して冷やします。

これは前回の伝熱学でいえば、対流熱伝達の世界。そして液体金属を使うと熱伝達係数がとっても大きくなるんですね。そして、こうして高温になった液体金属を今度はお水で間接的に冷やします。上の絵でいえば水色の部分がお水のラインです。そのお水が蒸発して蒸気になり、先に話したおもり(絵の中のピンクの部分)をぐるぐる回して発電する、につながるわけですね。

このブランケット(など)をどうやって効率よく冷却するか? みたいな研究を昔私はやっていました。

核融合のこれから

上で説明したDT反応をトカマク式電子レンジの中に「閉じ込めて継続させる」のがとても難しい。温度、密度、継続時間のすべての条件が一定以上そろう必要があるのですが、それがまだ実用的な段階まで来ていないんですね。でも世界のすごい人たちの知恵を結集することで10~20年後には技術的に成立してて、30年後の2050年には「電気がただになる」世界が訪れていることを期待しています。その時、私は77歳。その世界を見届けることができればもうこの世に思い残すことはないでしょう。

これからの30年間

どうせ30年後には夢にエネルギーができるから・・・ということで何もしないでいいということはありません。この核融合技術に依存することなく、我々はCO2排出を実質ゼロにすることを誓い合いました。それに世界中の天才が集まってもあと30年で計画通り核融合が実用化できる可能性は残念ながらそう高くはありません(個人的見解)。

ということは、これからたった30年で化石燃料の使用を最小限まで抑え込み、それと同等のCO2をキャンセルする世界をつくらないといけません。これは大きなチャレンジです。核融合のような画期的な技術的解決策はそれまではないと思われます。ということは、誰かが何とかしてくれるだろう、という考えではいけないということになるわけです。

ひとりひとり、省エネもそうですが、自分の生活の中で、自分の仕事の中で何が出来るか?ゼロベースで考えることをやってみましょう。そこには大きなビジネスチャンスが転がっている可能性があるのです。そして、ここでたてヨコ愛媛のような多彩な知恵の組み合わせがびっくりするようなことをやってのけるかもしれません。

たてヨコ愛媛というトカマク装置に入れられた我々。イナミ電子ビームでプラズマとなり、レイナ磁気ドーナツでがんじがらめにされ、クボブランケットで頭を冷やされ・・・。果たして私たちは夢のコミュニティになれるでしょうか?

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TATE NAGAFUCHI

ABOUT ME
テイト 永渕
1972年生。愛媛県に本社がある三浦工業株式会社で企画統括部に所属。機械エンジニアとして入社し、その後アメリカ駐在を9年間経験。 2019年6月に稲見さんとともにNPUG愛媛交流会をはじめ、それが今のたてヨコ愛媛の原型となる。愛媛で最も面白い人たちが集まる社会人コミュニティを作りたい。ニックネームはテイト(Tate)。
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