睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まる病気です。特に「いびき」が強く、夜中に何度も目が覚める場合、この症状が疑われます。気道が閉塞しかかるといびきが出るわけですが、さらに重症化して閉塞すれば息が完全に止まり、無呼吸になります。こうなったらいびきすらも出ないわけですが、病態としてはより深刻なものです。SASには主に2つのタイプがあります:
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA):気道が物理的に塞がることで起こる最も一般的なタイプ、一般的に多いタイプ。肥満や小顎症などによって起きます
- 中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA):脳からの呼吸指令が一時的に停止することで起こります、心不全や脳梗塞などで起きます
なぜ危険なの?
無呼吸の状態が続くと、血中酸素濃度が低下し、心臓や脳に大きな負担がかかります。SpO2という血中の酸素濃度を測る機械があります。普通の人は99%~100%が保たれており、息を頑張ってこらえたとしてもその数値が大きく下がることはありません。そんな数値ですが、SASがあると容易に60~70%まで下がります。これがどれほど苦しいもので、体に負担をかけるかは想像できるでしょう。脳の酸素が不足すれば、脳は休むことができず、酸素の数値が下がるのでその分心臓の負担は増えます。その結果下のような症状が出現します。
- 日中の眠気:仕事や運転中の事故リスクが高まります
- 高血圧・心疾患のリスク増加:特に心筋梗塞や不整脈との関連が指摘されています
- 集中力・記憶力の低下
それだけではありません。ざっくり言うと死ぬ確率が上がります。下の図はランセットという、業界でも有名な雑誌に掲載された有名な論文です。重症SAS(赤線)は明らかに他の群と比べてもとびぬけて致死的なイベントが多いことがわかります。そしてそれをCPAPの治療を行うこと(青点線)で普通の人と同じくらいにはイベントを抑制できることが明らかになりました。CPAPの効果がこれによって一気に広がり、SASの治療方法として確立されました。
主な症状
- 大きないびき
- 夜中に何度も目が覚める
- 日中の強い眠気
- 朝起きた時の頭痛や倦怠感
原因とリスク要因
- 肥満:首周りの脂肪が気道を圧迫
- 加齢:筋力低下により気道が閉塞しやすくなる
- 扁桃腺肥大:特に子供の場合
- アルコールや睡眠薬の使用
セルフチェック方法
以下の項目に当てはまる場合、SASの可能性があります:
- 家族に「いびきがひどい」と指摘される
- 夜中に息苦しさや窒息感で目が覚める
- 日中、強い眠気に悩まされる
ESSというチェックシートがあります。これで11点以上だとSASの可能性が上がります。
治療法は?
1. 生活習慣の改善
- 減量や禁煙
- 睡眠時の横向き姿勢
- アルコールを控える
- 睡眠剤を飲まないようにする
2. CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)
マスクを装着し、気道に空気を送り続けることで無呼吸を防ぎます。鼻と口を覆うフルフェイスタイプと鼻だけのナーザルタイプのマスクがあります。鼻だけの方が圧迫感は少ないですが、フルフェイスタイプの方が効果は強いです。
3. マウスピース治療
下顎を前に出すことで気道を広げる装置です。軽度~中等症のSASの人に使われることがあります。
4. 外科手術
扁桃腺肥大や鼻中隔湾曲など、解剖学的な問題がある場合に行われます。基本的には小児に行われます。
まとめ:質の良い睡眠を取り戻すために
睡眠時無呼吸症候群は放置すると重大な健康リスクを引き起こします。なにより自分で自覚しににくいので発見が遅れ、多くの人が診断に至っていないといわれています。SAS患者は日本の人口の1%程度(100万人程度)はいると言われていますが、CPAP治療が行われているのは30万人程度です。睡眠に関する治療はプライベートは領域に踏み込むこともあり、医師も聞きにくいし、患者も相談しにくいのも問題です。症状がなくてもいざ治療すると、体が楽とか日中の調子がいいとか言われることもありますので、「もしかして?」と思ったら、一度専門医に相談することをお勧めします。