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スタートアップ組織

DAODAO言うならアナキズムの歴史ぐらい知っといた方がいいんじゃないの?という話

みなさん、こんにちは。
株式会社ZENTECHの鈴木です。

最近、「DAO」という言葉をあちこちで耳にしませんか?もともとは暗号通貨の世界から生まれた概念ですが、今では企業組織のあり方、地域コミュニティの運営、さらにはオンラインでの協働プロジェクトなど、様々な場面で「DAO的な」という表現を目にするようになってきました。
「新しい組織の形だ!」「SNSの次はDAOだ!」なんて声も聞こえてきます。

僕自身ももともとテクノロジー好きなので、DAOには可能性を感じています。でも、ちょっと待ってください。

この「革新的」と言われているDAOの考え方、実はそんなに新しくないんです。今日は、DAOとアナキズムの意外な関係について、ちょっとこの場を借りてお話ししたいと思います。
「え?アナキズム?」って思った方、その反応、正解です。でも、実はコミュニティのあり方に関する考え方の深い部分で、繋がりがあるのではないかと僕は考えています。
では、少し歴史を振り返る旅に出てみましょう!

DAOって何よ?という人のために

まず、DAOについておさらいしましょう。DAOは「分散型自律組織」の略称です。英語で言うと「ディセントラライズド オウトノマス オーガニゼーション Decentralized Autonomous Organization」という噛みそうな名称です。
ブロックチェーン技術を活用し、中央集権的な権力構造なしに運営される組織モデルを指します。簡単に言えば、ボスがいない組織です。みんなで話し合って物事を決めていく、そんな組織のことです。ブロックチェーン技術を使って、中央集権的な権力者なしに運営される組織のことです。
(余談ですが、DAODAO言っている人に「DAOって何の略ですか?」と質問してみて答えられるかどうかで、その人のDAOに対するスタンスが分かるかもしれません)

主な特徴はこんな感じ:

  1. 上下関係なし
  2. 参加者みんなで運営
  3. 話し合いで意思決定
  4. 入るのも出るのも自由

「へー、面白そうやん」って思いましたか?でも、この考え方、実はかなり古くからあるんです。

アナキズムって聞いたことある?

「アナキズム」と聞くと、「無政府主義」とか「無秩序」をイメージする人も多いかもしれません。特に、1976年にセックス・ピストルズが発表した「Anarchy in the UK」という曲の影響で、「アナキー=混沌」というイメージが広まった面もあります。パンクロックと共に世界中に広がったこのイメージは、アナキズムの本質を少し歪めてしまったかもしれません。

そもそも「アナーキー」ってどういう意味なんでしょうか?実は、この言葉、古代ギリシャ語に由来しているんです。

「アナーキー」(ἀναρχία・anarchia)は、「統治者がいない状態」を意味します。

  • 「an-」(ἀν-): 「~がない」という意味の接頭辞
  • 「archos」(ἀρχός): 「統治者」や「支配者」を意味する言葉

つまり、語源的には「統治者がいない」というだけで、必ずしも「無秩序」や「混沌」を意味するわけではないんです。

このように、アナキズムの本質は「権力者に頼らない、みんなで作る社会」なんです。セックス・ピストルズの曲が描いた「混沌」は、既存の権力構造への反発を表現したものであり、アナキズムが目指す最終的な姿ではありません。

ここで、アナキズムの歴史と主要な思想家たちについて少し触れてみましょう:

  1. ピエール=ジョゼフ・プルードン(1809-1865):「無政府主義」という言葉を肯定的な意味で初めて使った人物です。彼の「所有とは窃盗である」という言葉は有名らしいです。かっこいいですね(笑)
  2. ミハイル・バクーニン(1814-1876):ロシアの革命家で、国家の廃絶と自由な連合による社会の実現を主張しました。マルクスと対立したことでも知られています。ちなみにマルクス、というかマルクス主義者とアナキストはあんまり仲が良くなかったみたいです…。
  3. ピョートル・クロポトキン(1842-1921):ロシアの地理学者にして革命家。「相互扶助」の概念を提唱し、競争よりも協力が自然の法則だと主張しました。
  4. エマ・ゴールドマン(1869-1940):アメリカで活動したアナキスト。フェミニズムとアナキズムを結びつけた先駆的存在です。

これらの思想家たちは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、資本主義や国家権力の問題点を指摘し、より自由で平等な社会のあり方を模索しました。彼らの思想は、労働運動や反戦運動、フェミニズムなど、様々な社会運動に影響を与えています。

さて、ここでDAOの特徴を思い出してください。似てませんか?そう、DAOとアナキズムには驚くほど共通点があるんです:

  1. 階級なし社会を目指す(まさに「archos」がいない状態!)
  2. 自分たちで決める
  3. 話し合いを大切にする
  4. 参加も離脱も自由

歴史の中のDAO的な動き

「えっ、でもDAOって現代の新しいコミュニティの形じゃないの?」 そう思った皆さん、実は、似たような試みは過去にもいくつかあったのです。たとえば:

  • 19世紀のアナキスト・コミューン:政府なしで自治を目指した共同体
  • 20世紀初頭のキブツ運動:イスラエルの共同体農場、みんなで決めて運営
  • 1960年代のコミューン運動:「平等」「自由」を掲げた共同生活

これらは全部、「みんなで決めよう」「上下関係なしで生きよう」という試みだったんです。DAOは、言ってみれば、これらのデジタル版とも言えるでしょう。

DAOって理想的なの?実際のところどうなの?

DAOって聞くと、なんだかすごく革新的で最先端の仕組みのように聞こえます。これまでいろいろと組織として問題になっていたようなことが、DAO的になることで一気に解決できそうな気さえしてしまいます。
でも、実際のところどうなんでしょう。アナキズムの歴史を見ると、理想の組織を作ろうとしてもいろんな問題に直面したことが見えてきます。DAOも同じような課題にぶつかる可能性があるんじゃないでしょうか?

じゃあ、具体的にどんな問題があるのか、会社の生活に例えて考えてみましょう:

  1. 意思決定に時間がかかりすぎる?
    会社で企画を立てるとき、部署を越えて意見を聞くと時間がかかりますよね。DAOでも同じで、みんなの意見を聞くのはいいけど、決断が遅れてしまう可能性があります。緊急の判断が必要なときはどうするの?って思いませんか?
  2. 責任の所在があいまいになる?
    「これ、誰の仕事?」ってなったことありませんか?DAOではボスがいないから、誰が最終的な責任を取るのかがはっきりしないかもしれません。トラブルが起きたとき、誰が対応するの?って心配になりそうです。
  3. 本当に平等にできるの?
    会社でも、できる人とそうでない人の差は出てしまいますよね。DAOでも知識や経験に差があれば、結局新しい形の「できる人」と「できない人」の差ができてしまうかもしれません。
  4. 結局、お金持ちが偉そうにしない?
    DAOでは「トークン」という、発言権みたいなものを一人一人が持つことができます。でも、これをたくさん持ってる人が偉そうになってしまう可能性があります。会社で株をたくさん持ってる人が偉そうにするのと同じようなことが起きるかもしれません。
  5. 法律的にグレーなところがある?
    新しいビジネスモデルって、法律的にどう扱えばいいか分からないことありますよね。DAOも同じで、法律的にどう扱えばいいのか、まだはっきりしていない部分があります。最近は、DAO的な組織にも法人格を取得することができるようになったりして、法制度が整備される方向にはありますが。
  6. ハッキングとか大丈夫?
    会社のシステムがハッキングされたら大変ですよね。DAOも同じで、ハッキングの危険は常にあります。大切な情報や資産が盗まれてしまう可能性もゼロではないんです。

これらの問題点を見ると、DAOも完璧じゃないことが分かりますよね。でも、だからダメというわけじゃありません。むしろ、これらの課題をしっかり理解して、どう乗り越えていくかを考えることが大切だと思います。

会社だって、最初はいろんな問題があったけど、少しずつ改善してきたはずです。DAOも同じように、問題を一つずつ解決していけば、もっと良い組織になれる可能性は十分にあります。

結局のところ、DAOは「夢の組織」や問題をなんでも解決してくれる便利なツールではなくて、「頑張ればすごくいい組織に作れるかも」くらいに考えるのがちょうどいいかもしれません。
新しいものには可能性もあるけど、課題もある。それをきちんと理解した上で、どう活用していくか。そんな風に考えてみることが必要なんではないでしょうか?

DAOの根本的な問題:意思決定とインセンティブの落とし穴

さて、ここまでDAOの一般的な課題をいくつか見てきましたが、もっと根本的な問題があると僕は考えています。それは「意思決定の方法」と「インセンティブ(やる気の出させ方)」です。これらはDAOの根幹に関わる問題なので、しっかり考えていく必要があります。

多数決って本当にいいの?

DAOの基本的な考え方は「みんなで決める」ということです。でも、これが単純な多数決だとどうなるでしょうか?

例えば、会社の飲み会の幹事をやったことがある人なら分かると思いますが、「どこに行く?」って聞いて多数決で決めると、だいたい無難な居酒屋になってしまいますよね。でも、それって本当にみんなが「行きたい」と思う場所なんでしょうか?

同じように、DAOで多数決を重ねていくと、こんな問題が起きる可能性があります:

  1. 「無難な」選択ばかりになる
  2. 少数派の意見が無視される
  3. 長期的な視点が失われる(目先の利益だけを追いかける)
  4. 専門的な知識が必要な決定が適切にできない

結果として、組織がどんどん「普通」になって、革新的なアイデアが生まれにくくなってしまう。

インセンティブって、諸刃の剣?

DAOのもう一つの特徴は、ブロックチェーンを使って自動的に報酬(トークン)を払えることです。一見すると、「頑張った人が自動的に報われる」って素晴らしそうですよね。でも、ここにも落とし穴があります。

例えば、営業成績だけで評価される会社を想像してみてください。短期的な売り上げは上がるかもしれませんが、長期的な顧客関係やブランドイメージはどうでしょう?おそらく悪化していくはずです。

DAOでも同じようなことが起こる可能性があります:

  1. トークンがもらえることだけを目的に行動する人が増える
  2. 数字で測りやすい貢献ばかりが評価される
  3. チームワークや長期的な視点が軽視される
  4. トークンがもらえないと何もしない「人参ぶら下げ症候群」が蔓延する

実際、いくつかのDAOプロジェクトでは、トークンの価値が下がると途端に参加者が減ってしまう、という事例が報告されています。

じゃあ、どうすればいいの?

これらの問題を解決するには、単純な多数決やトークンによるインセンティブだけに頼るのではなく、メンバーの「内発的動機」を引き出す仕組みが必要です。つまり、「やりたいからやる」「面白いからやる」という気持ちを大切にする組織づくりです。

具体的には、こんな方法が考えられます:

  1. 多様な意思決定方法の導入
    • 重み付け投票:専門知識や貢献度に応じて投票の重みを変える
    • 合意形成:少数意見も尊重しながら、じっくり話し合って決める
    • ローリング方式:定期的に決定を見直し、柔軟に修正できるようにする
  2. 非金銭的な評価システムの導入
    • 相互評価:メンバー同士で貢献を評価し合う
    • バッジシステム:特定のスキルや貢献に対してバッジを付与する
    • ストーリーテリング:数字だけでなく、具体的な成功体験を共有する
  3. 自己実現の機会提供
    • スキル向上プログラム:新しいことを学べる機会を提供する
    • 自主プロジェクト:興味のあるテーマで自由にプロジェクトを立ち上げられるようにする
    • メンタリング:経験豊富なメンバーが新人をサポートする仕組み
  4. コミュニティ感の醸成
    • オフライン・ミートアップ:実際に会って交流する機会を設ける
    • 共通の目的意識:組織の使命や価値観を明確にし、共有する
    • 透明性の確保:意思決定プロセスや財務状況を公開し、信頼関係を築く

要するに、DAOを成功させるには、テクノロジーだけでなく、「人間」の部分にもしっかり目を向ける必要があります。みんなが「ここで働くのが楽しい」「この組織の一員であることが誇りだ」と思えるような仕組みづくりが大切なんですね。

新しい技術を使いつつ、人間の本質的な欲求や動機づけをしっかり理解する。そんなバランスの取れたアプローチが、これからのDAOには求められているのかもしれません。

結論:歴史に学んで、未来を作ろう

DAOは確かに面白い考え方です。でも、「全く新しい!」というより、「昔からある理想の現代版」と考えた方がいいかもしれません。

アナキズムの歴史を知ることで、私たちはDAOをより賢く使えるようになるはず。過去の失敗を繰り返さず、良いところは取り入れる。そんな賢い使い方ができれば、DAOは本当に革新的な組織になる可能性があります。

だから、DAOに興味がある人は、ぜひアナキズムの歴史も勉強してみてください。「へー、こんな試みがあったのか」「あ、この失敗、DAOでも起こりそう」なんて発見があるかもしれません。

さあ、歴史を学んで、よりよい未来を作りましょう。DAOの可能性を最大限に活かすためにも、アナキズムの歴史は知っておいて損はないはずです。

DAODAOと言う前に、ちょっと歴史の本を開いてみませんか?

ABOUT ME
鈴木直之
大阪で12年半バーをやっていましたが、2019年に地域おこし協力隊の制度を使った起業型移住プログラムに応募し、愛媛県西条市に移住。 地域の課題や活性化に取り組む人たちを見える化し、気軽に支援できるソーシャルドネーションアプリ「ZEN messenger」を開発し、2022年10月に西条市で起業。 現在、事業を全国に拡大すべく、活動中。
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