伊方町の浅野長武(サム)です。
教育を通して、よりよい社会を創っていくことが夢。
教師をしていると、ときに涙することがあります。
喜びだったり、悔しさだったり。
今でも忘れられない思い出を紹介します。
「涙のコロッケ」の思い出です。
今から30年前、四国カルスト大野ヶ原の麓にある中学校に勤務していました。
そこに入学してきたA君。
落ち着きがなく、友達とのトラブルをよく起こしていました。
厳しく指導すると、大声で泣きながら訴えてくることもありました。
部活動の練習試合が終わり、家まで送り届けたときのこと。
一人親家庭で、親はまだ仕事中で帰宅していませんでした。
帰ろうとする私に、
「先生、おなか減っていませんか。コロッケを作るので一緒に食べませんか。」
と誘ってくれたのです。
驚きました。
A君の生活の様子も気になっていたので、家に入らせてもらいました。
木造の古い一軒家。中は暗く、散らかっています。
土間の台所でコロッケを作るA君の後ろ姿を、複雑な思いで見ていました。
「先生、できましたよ。」
と、お皿に出されたコロッケ。
一緒に手を合わせて、いただきますと言った後、A君はおいしそうに食べ始めます。
手料理をふるまってくれた心遣いだけで胸が一杯だった中、ようやく一切れ口にしました。
するとA君は、それを待っていたかのように、
「どうですか。おいしいですか。」
と笑顔で問い掛けてきたのです。
その声を聞いたとたん、胸に熱く込み上げてくるものがありました。
自分はどれほどA君を知ることができていたのだろうか。
様々な事情を抱える中、たくましく生き、優しさを忘れないA君。
彼の一面だけしか見ることができていなかった自分自身へのふがいなさと、成長するA君へのうれしさが入り交じりました。
「おいしい、おいしいよ。」
と、やっとの思いで返事をした私は、あふれそうになる涙をこらえるので精一杯でした。
あのときのコロッケと涙の理由を生涯忘れることはありません。
愛情を持って子供を見守ること、そして子供を信じること。
仕事で迷ったときは、涙のコロッケを思い出しています。