【始めに】
早いもので3回目の投稿となりました。循環器内科の藤澤です。心臓の話、不整脈の話に続く第三弾は血圧の話をしようと思います。
高血圧はサイレントキラーとも呼ばれます。沈黙の暗殺者、つまり無症状の内に人を死に至らしめる病気ということです。患者数は4000万人を超えるといわれ、男性の3人に1人、女性の4人に1人が高血圧になっています。これは人口に占める割合で見ると全世界で39番目に多い数となっています。
【高血圧の定義】
そもそも血圧って何でしょうか。血液の圧?心臓の圧?心臓の圧は高いほうがいいのではと考えている人はいませんか。血圧とは血管壁にかかる圧力のことで高血圧とは通常よりもその圧が高い状態を指します。血管の抵抗と考えてもらってもいいかもしれません。抵抗が高いと心臓は血液を送り出すために、より大きな力を必要とするため負担がかかります。さらに血管壁自体にも圧負荷がかかり続けるため、もろくなります。その結果狭窄を起こして詰まったり、圧に耐えられず出血したりします。
ガイドラインで高血圧の基準は定められています。年齢や基礎疾患によって守られるべき血圧の基準は多少異なります。とりあえず140/90mmHgの数値だけ覚えてください。
【高血圧の健康への影響】
心筋梗塞・脳卒中:
高血圧は心臓や血管に負担をかけます。長期間にわたって血管に高い圧力がかかることで、動脈硬化(動脈壁の厚みと硬さが増加する状態)や動脈狭窄(血管に狭窄や閉塞が起きる状態)などの合併症が生じるます。心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まれば脳梗塞になります。
心不全:
高血圧が長期間続くと、心臓の負担が増加し、心不全のリスクが高まります。高血圧によって心臓が常に過度の負荷にさらされると、心筋が疲弊したり、肥大したりして効率的に血液を送り出すことが困難になります。
腎臓疾患:
腎臓は圧によって血液から尿の成分をろ過するような機能があります。ゆえに血圧が上がるとすぐに負荷がかかってしまい、そのろ過装置が壊れやすくなってしまいます。さらに動脈硬化によってそのろ過装置への血流が低下すると、血流を増やそうとするホルモンが分泌されます。このホルモンがまたさらに血圧を上げるという悪循環を生みます。
「血圧↑→動脈硬化→腎血流低下→血圧上昇ホルモン分泌→血圧↑」ということです。
眼疾患:
目の動脈にも前述のように負担がかかります。目の動脈は他の動脈に比べても元々細くて小さいため、わずかな動脈硬化でも容易に狭窄や出血を来しています。網膜症や緑内障などの眼疾患のリスクを高めたり、視力に影響したりします。
【生活の中でのできること】
塩分摂取の制限:
一般的には、アメリカのガイドラインでは1日の塩分摂取量を6g未満に抑えることが推奨されています。しかしランチに牛丼やラーメンなどを摂取するとそれだけで4-6gの塩分を摂取することになってしまいます。イメージがないかもしれませんが、実はパンや麺、ハムなどの加工食品もそれ自体に塩が多く含まれています。可能であれば塩分の表記をみて少ないものを選ぶ、あるいは自炊するのが良いです。自炊でできることとしては塩分カットの製品を使う、スパイスや出汁を利用する、お酢を使って味を出すなどがあります。どうしても、醤油や塩を使ってしまう場合には最後にかけるようにする、かけるにしてもスプレーで吹き付けるようにする、かけるよりも付けるようにする、と摂取される塩分量は少なくなります。
飲酒の適度な制限:
適度な飲酒は健康に良いとされていますが、高血圧のリスクを増加させることもあります。過度の飲酒は高血圧の発症や悪化につながる可能性があります。
一般的な1日の適度な飲酒の基準は、缶ビールなら1本、日本酒なら1合と言われています。ただし、高血圧を持つ場合や高血圧のリスクがある場合には、飲酒を控えるか、どうしてもやめられないならば週に1回程度は休肝日を設けることをお勧めしています。
適度な身体活動の実施:
適度な身体活動は、高血圧の予防や管理において非常に重要です。適度な身体活動は、血圧を下げ心臓や血管の健康を促進する効果があります。有酸素運動や筋力トレーニングなど、自身の体力や健康状態に合わせた適切な運動を選択しましょう。国が推奨している目標は、高齢者であれば少なくとも1日6000歩程度はウォーキングをする、あるいは週2回は軽く息が上がるくらいの運動を行う、ことを目標にしています(健康日本21)。
ストレスの軽減:
長期的なストレスは高血圧のリスクを増加させることがあります。ストレスを軽減するためには、リラクゼーション法(深呼吸、マインドフルネス瞑想など)や趣味、ストレス解消法を取り入れることが重要です。積極的に外に出て、いろいろやってみましょう。その中で興味のある活動が生まれればそれを持続していくことが人生を豊かにし、心をリフレッシュさせる効果があります。読書、音楽鑑賞、ガーデニング、ペットとの触れ合いなど、個々の好みに合わせた活動を楽しみましょう。
睡眠の質と充足:
十分な睡眠を確保し、質の良い睡眠を取ることも健康的な生活習慣の一部です。睡眠不足や不規則な睡眠は血圧に影響を与える可能性がありますので、睡眠環境の整備やストレス解消などに努めましょう。人生の1/4は睡眠に費やされます。睡眠の環境を整え、質のいい睡眠グッズを準備することは長い人生を考えたときにはコスパの良いお金の使い方になります。私もマットレスをいいものに変えてから腰の調子が良くなりました。
【薬物治療】
利尿薬:
利尿薬は体内の余分な水分やナトリウム(塩分)を排泄するために利尿作用を持つ薬です。体液量を減らすことによって血圧を下げますが、腎臓に負担をかける可能性があります。
ベータ遮断薬:
ベータ遮断薬は心拍数を減少させ、心臓への負荷を軽減する効果があります。血圧を下げるだけでなく、心臓への酸素供給を改善します。心保護効果もあり、特に心臓病がある人は積極的に使用します。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬:
これらは血管を拡張させる効果があり、血圧を下げる効果があります。また、心臓や腎臓の保護にも役立ちますが、高カリウム血症などの副作用もあるため、高齢者の使用には少し注意が必要です。
カルシウム拮抗薬:
カルシウム拮抗薬は血管の平滑筋をリラックスさせ、血管の収縮を抑制する効果があります。これにより血圧を下げる効果が期待される上、副作用が少なく非常に使いやすい薬です。ただし頭の血管を拡張させてしまうと、頭痛などの副作用が出る可能性はあります。
薬は降圧に有効ですし、薬を飲まなければ血圧が下がりきらない人は確かにいます。ただし、薬を飲んで血圧を下げれば何をしてもいい、というわけではありません。薬による血圧低下は予後を改善しないといったデータもありますので、どちらにしてもすべての基本である食事運動療法は自分で継続することが大前提です。気を付けたいが何したらいいかわからない、気を付けているがこれがあっているかどうかわからない、など疑問があればお気軽にご相談ください。