Column

たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

2年間ド田舎で生活して見つけた『新しい生き方』

 2000年9月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行している最中、20年間務めた大手メーカーを辞めました。そして、実家の限界集落にUターンして無職に。当時は動きたくてもコロナの影響もあって動くことも許されない状況でした。「退職金も出たしゆっくり森林関係の仕事を見つけよう。時間はあるから自分で食べる分の野菜や米は作ろうかな」くらいの軽い気持ちでいました。まさかコロナウイルスの流行が3年近くにもなるとは想像もしてなかったのですが・・・

資本主義の中の人

 遡ることメーカー勤務時代、自分はまさに「資本主義の中の人」でした。山口周著「ビジネスの未来」に出てくる図を参考にすると、経済合理性限界曲線の中にいる人ということになります。


 この限界曲線内では

 V(問題解決≒顧客価値)=Q(機能)/C(コスト)

が成り立ち、機能が上がることで問題解決の領域が広がり、コストが下がることで誰もが容易に問題解決ができるようになります。世の中の多くの問題が解決できるようになったのは、資本主義のおかげであるとも言えます。一方で、限界曲線内は既に問題は解決しているので、機能向上の必要はなくコストを下げることで利益を生む必要に迫られる激しいコスト競争の世界となります。
 この式は、企業にも個人にも当てはまります。企業は強いビジネスモデルの創出に注力し、顧客価値を高めるため人件費を削減に踏み込むこともあります。個人も同じ。自分を成長できる場とも言えますが、この限界曲線の内側の世界は他者と比較される場です。それだけに「資本主義はしんどい」という側面もあるというのが本音です。

資本主義の凄さ

 資本主義はしんどいと思っている自分が、実家の限界集落で無職になり見えてきたもの・・・ それは、『資本主義経済の凄さ』です。資本主義はしんどくて嫌だと思う反面、その凄さを実感しています。

 実は、自分は田舎が嫌いでした。欲しいものが買えない、情報も少ない、田舎独特のコミュニティも苦手・・・。学生の頃は、こんなところに住むもんかと思ってました。それが、今となってはインターネットの登場によるイノベーションによりこれらの問題は完全に解決されています。基本的に何でも買えるし、情報は溢れるほど。どこにいてもどんなコミュニティとも繋がることもできます。テクノロジーの進化により、以前は経済合理性限界曲線の外側にいた限界集落の諸問題が解決されているんです。

贈与経済の面白さ

 一方で、『贈与経済の面白さ』も見えてきました。贈与経済とは何かというと、一般的には「見返りを求めずに他者にモノやサービスを与える」経済を意味します。資本主義≒貨幣経済は、原則としてお金を介しての等価交換ですから全く違う経済です。見返りを求めずと言うと高尚な感じがしますが、田舎ではそんなことまでは考えてないように見えます。実際はどうかというと端的に表しているのが田舎で飛び交っているこの言葉。

 「どうせ腐らせるだけやけん。」

そうなんです、野菜や魚は腐るから人にあげるんです。腐る≒価値が下がるくらいなら使って欲しいってのが本音のところです。もちろん、自分が作った野菜を食べて喜んで欲しいという気持ちもありますが、それと同じくらい採れ過ぎちゃって腐らせることになるからもったいないがあります。だから、田舎での物々交換は等価の意識はほとんどないと言ってもいいでしょう。「見返りを求めずに他者にモノやサービスを与える」なんてことあまり思ってないのに、贈与経済がまわっているところが非常に面白いんです。

生きることへの自信

 そんな環境の中で2年。「資本主義の凄さ」と「贈与経済の面白さ」を両輪に生活していると、自分の中で生まれてきたのが『生きることへの自信』 メーカー勤務時代、収入もそれなりだったので信用はある方でした。それなのに、何故か心のどこかに不安がある・・・ 今は新たな借り入れができないほど信用はないのに不安はないんです。自分で食料を作り、固定費が圧倒的に圧縮しているかもしれないですが、贈与経済の中にいることで周りとの信頼関係が築けているところが大きいのではないかと思っています。信用はないけど信頼はある、これが『生きることへの自信』に繋がっているように感じています。
 

自分のミッションへ

 そして、生きることへの自信が生まれた今、自分のミッションに向けて進み始めることができています。そんな自分のミッションは『森林の循環の回復』。現在、松野町が運営している組織「薪ステーション」に入って、組織の再構築に取り組んでいます。この組織の立ち位置は、経済合理性限界曲線の外側です。それだけに、答えがありません。その答えがない道なき道を、「資本主義の凄さ」と「贈与経済の面白さ」を両輪に『生きることへの自信』を持って進んでゆく!それが自分にとっての『新しい生き方』です。 

 自分のミッションを実現するために、最初から経済合理性限界曲線の外側に挑む人たちもたくさんいます。一方で、自分は積極的に挑むというよりは、生きることへの自信が持てたことで『生まれた余白にチャンスが降ってきた』感じがしています。覚悟を決めて挑む!のではなくて、田舎でゆるく生きていると、いつのまにか自分のミッションに挑んでいる・・・

 こんな新しい生き方もあるのかも?をこれからも仮説検証していきます。

ABOUT ME
河野 亮二
ニュータイプ林業を目指し、松野町にUターンしました。自伐林業と林業の6次産業化を実現したいです。メーカーで20年エンジニア/マネージャーをしておりました。組織を崩壊させた経験があります。どん底まで落ちましたが、対話を重視した組織開発に特化することでで世界初の技術創出に挑むチームになれました。組織運営を楽しんでいる方、悩んでいる方、お話だけならいくらでも聴きますよ~ そして、今の夢は、森の中で組織開発をしたいです。
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