Column

たてヨコラム

たてヨコメンバーによるフリーテーマのコラム

ビジネスマーケティングデザイン

デザイン概論(全15回・最終回)

「今日も楽しく日経平均」

「今日も楽しく日経平均。どうぞ。」から毎回始まる私の授業。
たまたまであるが、2年連続入学初回の授業が私の授業という不幸を背負い、彼らのクリエイターを目指すという歩みが始まった。そして今日が前期最後の授業。5年前に愛媛に戻ってすぐからご縁あって専門学校で年間6コマだけ授業を受け持っていたのだが、昨年から前期の半期に全15回30コマに拡大し「デザイン概論」を教えている。

で、なぜ、デザイン概論の授業で日経平均なのか?
別に経済の授業をしてるわけではない。あくまで「デザイン概論」の授業である。
大した理由はない。私自身、随分大人になってから日経平均も為替相場も全くわかってないことで焦った経験があり、大阪時代のヒューマンアカデミー非常勤時代からずっと、授業始まり時に学生には日経平均とドル為替を調べさせノートにメモさせている。

「27,595円81銭」
はじめは「てん、はちいち」と単位もままならなかった学生も今では普通にしれっと言う。

本日、前期試験を兼ねたプレゼンテーション

そして今日は前期試験も兼ねた、学生全員による最後の課題プレゼン。
今年の1年生は44人。私の持ちコマは90分の2コマ(180分)。順当にいけは1人3分で授業終わり時刻。半年前まで高校生だった彼らが1人3分も喋られないはずなので、残り時間を使ってデザイン業界で生きていくためのマインドなり、地方でクリエイターになることの覚悟などを話をする算段で授業用パワポも作ってきた。

彼らがプレゼンする先週出した課題。

「バレンタインギフト」のデザイン。

「みんなに聞きます。バレンタインがあってほしい人?」
「あんなもん無くなってほしい人?」

44人の男女比は1:4。10人が男性。34人が女性。
年齢は多少誤差があるが、おおむね18歳。

私の初期のイメージからすると、そのほとんどが「いらない」と表現するかと思ったが、このクラスでは「必要」が7割を超えた。実にtwitterでとられたアンケートに対して真逆の反応だ。
そんな予定外の結果に怯むことなく、話を続ける山田先生。

「ネットだと7割がいらないってよ。世の中的には『古めかしい過去のイベント』になってるのかも」
「そこで皆さんには『バレンタインギフトのデザイン』をしてもらいます」

条件:「新しいバレンタインギフトのデザイン」の提案。
目的:窮地に立つ、バレンタイン業界を君らのアイデアと想いで救え!!!

さてさて皆さん、この課題でアウトプットは何を思い浮かべますか?
どうやらほか先生の授業と、私の授業の決定的な違いがあるようです。
私の授業では「正解を求めない」こと。

きっと皆さん、「バレンタインチョコのパッケージ」の造形やグラフィックをイメージしたんじゃないでしょうか? 私が一言も「チョコ」とも「製品」とも「パッケージ」とも言っていないにも関わらず。

小中高の教育とのマインドシフト

私たち日本人が通常、高校までに受ける教育は「暗記による知識の確認」「知識取得による問題解決の応用」だったりします。そしてその最大の問題が「問題を与えること」だったりします。
そして、大学や社会にでて教授や上司に言われるのです。「指示待ちするな!自分で考えろ!」って。
そんなこと言われても、少なくと6歳で小学校に入って、18歳で高校を卒業するまで先生から「問題」を与えられ、記憶された情報からその「答え」を検索してアウトプットする作業しかしたことないのに、いきなり「考えろ!」って言われてもねえ。
その挙句、考えて行動してみたら、その教授や上司に言われるのです。「経験もないくせに、勝手にすんな!」と。

暗記至上主義的な教育からの脱却を目指して、国としても偉い方々が様々な改革をしてみたとて、記憶の中から正解を検索し、答えるという試験制度が絶対無二である以上は、まあ、変わるわけがない。と私は思ってます。そして、それがダメなわけではないとも思っています。日本の識字率も含めた教育水準は素晴らしいと聞いてますし。

さて、話を戻します。
私の課題に対して、「バレンタインチョコのパッケージ」をイメージされた皆さんは、実に一般的であり、むしろすこぶる真面目に日本の教育制度の中でその力を遺憾なく発揮してこられた方に違いない。
ですが、私が教育し育ててるのは「クリエイター」である以上、そのマインドセットでは「クリエイター」になるのは難しく、初授業で学生達には残酷ながら宣言している。「この中でクリエイターになれるのは1割だよ」と。とはいえ、デザイン業界もピンキリでそのなかで仕事はできたりはするんですがね。

私が彼らに問うたのは「窮地に立つ、バレンタイン業界を君らのアイデアと想いで救え!!!」というもの。その手法がCMでも新しい販売チャネル提案でもイベントでもブランディングでもいい。手段が重要なのではなく、クリエイトした先にある関係者のUXデザインがいかに素敵で笑顔に溢れてるかが重要だったりするのである。

課題を出したのが先週、1週間で提出という非道。笑

課題を出したのが先週。
その場で1チーム5~6人ほどに適当に分ける。出席番号5の倍数チーム。とか。超適当。(-_-;)
早速席替えをした彼らはすぐに作業を開始する。

彼らには入学当時から「モノのデザイン」と「コトのデザイン」やデザインという言葉の狭義なとらえ方と、広義なとらえ方。UXデザインの考え方をはじめ、サーベイ・市場調査・マーケティングのまねごと、そして上記に書いた学校という存在の意識改革・マインドシフトを徹底的に叩き込んでいる。「問題も答えも与えられた知識蓄積の検索型思考」ではなく「問題の発見・設定・常識の再定義を基本とした創造的思考」を口酸っぱく、それはそれは、レモン果汁324%濃縮水よりも酸っぱいくなるほど言い聞かせた。

彼らから
「先生、パッケージデザインでいいんですか?」なんて質問はもう来ない。
もちろんはじめは答えを用意されていない設問に対して、何をどうしていいのかかなり困り、苦しんでいた。彼らが始めた作業とは「本来バレンタインとはなんであるか?」という調査。そして「バレンタインとはどんな認知をされているのか?」という問いへの調査。
あるチームは手分けして国内外の歴史を調べ、あるチームはバレンタインチョコの起源を調べる
また、あるチームは「三越でヒアリングしてきます!」と言って出て行ってしまうし、ほかのチームも大街道でアンケートを取ってくるらしい。

そうしてそれぞれのチームにとっての「バレンタイン」という単語にムラが生じ始める。
もちろんまとまるチームもあれば、ある程度仲たがいするチームもある。
このムラこそが、クリエイトされるアウトプットに関しての一つ目の差異となる。

そこで、タイムアップ。授業終わりに
「課題提出が目的じゃねーぞ?発表したら点数やらん。みんなを感動させるのが目的だよ」
「そして、クラスで俺が、私がNo1であることを証明してみせろ」
と伝えた。
そして、今日のプレゼンテーションを迎えたわけ。

彼らに、ことプレゼンテーションに関しても何度も教えてることがある。
「発表」と「プレゼンテーション」の違いについて。
たてヨコ愛媛のメンバーだとプレゼン慣れしてる方が多いので、釈迦に説法だとは思うのだが、私は彼らに「発表すんな。プレゼンしろ!」という。「発表」人前で自分のアイデアやたどり着いた答えをお披露目することであり、「プレゼンテーション」とは、人前で自分のアイデアやたどり着いた答えに共感・感動・感銘を与えようとする行為である。というのが私の感覚だったりする。

現在16時59分。

さてさてどうしてこうなったのか。現在16時59分。
今日13時半からプレゼン開始して、15時にいったん休み時間。
15時10分から16時40分までの予定なのだが、まだあと数人のプレゼンが残っている。
教室の何人かはバイトの時間もせまり、ドキドキしている学生も散見されるなか、大多数の学生たちの目はまだまだ真剣に同級生のプレゼンを見守り、個々の中で発見と審議を繰り返しているようだ。

そして彼らはそれは見事に、「バレンタインギフト」のデザインをしてきた。
中にはバレンタインギフト業界に追い打ちをかけそうな案もあったり、今すぐお菓子メーカーや、大街道や銀天街にプレゼンに行けと思うものまで。

【関係各位へ業務連絡】学生にプレゼンに行かせますので、ぜひご連絡ください。マジで。

本来なら授業が30分ほど余り、もう二度と教鞭をとることのない彼らに対して、金八先生よろしくの最後に素敵な話をするところなのだが、今回はそんな時間は残されていなかった。最後のプレゼンが終わると学生たちがそわそわする。そして私が数分だけという約束で最後の話をした。

彼らのレベルは私がいうのもなんだが、去年に続いて地方のデザイン専門学校レベルを大幅に超えてきてると思う。もちろんたった半年。これからの彼らの数か月次第できっとクリエイターにはなれない学生も出てくるだろう。いい学生がいるので、リクルートの折にはよろしくお願いいたします。笑

「俺がみんなに伝えられることは全部伝えた!あとは君ら次第や」
「20歳になって、卒業して。いっぱしのクリエイターになって会いに来い。その時は一緒に酒を飲もうぜ」

2022/9/5 17:48 山田の可愛いモルモット達を他の先生にゆだねてきた。ちょっと寂しい。

ABOUT ME
山田 敬宏
大学卒業後、メーカー・デザイン事務所勤務を経て、1999年「有限会社リプル・エフェクト(西宮市)」、2017年「株式会社リプルエフェクト(松山市)」を設立。東京・大阪・愛媛の大小様々な企業の製品開発やブランディング、デザイン、ビジネス創出など、デザインコンサルティングとして「0 to1」業務のブレインを担当。 国内をはじめ、世界3大デザイン賞やビジネスコンテストのグランプリなどを多数受賞。 その他、大学や専門学校での講師や起業イベントなどでのメンター・コーチング、製品開発系のセミナーなども行う。 ビジネス デザイナー / デザイン ディレクター / 製品開発・プロダクト デザイナー / UX・UIデザイナー
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